日本の山 《 Vol.4 》

【 加賀禅定道をゆく 】
 
2012年9月25(火)〜28日(金)(前泊・後泊含む)
所在地:石川県〜岐阜県
走行距離:425km ( 自宅 → 白山温泉永井旅館)

【 白山温泉(市ノ瀬):石川県白山市白峰 】 

(総文字数 約12,000文字)
 
実施行程表(※明記の標高は誤差があります)

第1日(26日/水曜日/天候:晴)
▼永井旅館(6:50) …旅館のワゴン車で登山口である別当出合まで送ってもらう.

 <市ノ瀬ビジターセンター前バス乗り場(前日に撮影)> 
   ↓15分(車)
▼降車した場所(7:05) …ゲートが有り,車はここまで(標高約1,230m).
   ↓10分
▼別当出合(7:15〜7:20) …休憩舎,トイレ有り(標高1,260m).

 <別当出合休憩舎> 
   ↓40分
▼中飯場(8:00) …ベンチ,トイレ有り(標高1,550m).

 <中飯場> 
   ↓30分
▼休憩(8:30〜8:40) …別当谷を挟んで観光新道が通る尾根が見渡せる(標高約1,700m).

 <観光新道が通る尾根> 
   ↓10分
▼別当覗(8:50) …覗いても下草に邪魔され別当谷は見渡せない(標高1,750m).

 <別当覗標識> 
   ↓50分
▼甚之助避難小屋(9:40〜9:45)…標高1,975m.小屋前広場からの眺望が素晴らしい.

 <甚之助避難小屋> 
   ↓25分
▼南竜分岐(10:10〜10:15)…ここは南竜道との分岐点(標高約2,100m).

 <南竜分岐標識> 
   ↓30分
▼三ノ越(10:45〜10:50) …ここから十二曲がりのきつい坂が始まる(標高約2,230m).

 <坂から黒ボコ岩を見上げる> 
   ↓10分
▼黒ボコ岩(11:00〜11:15) …黒い大岩が両側に門のように鎮座している(標高2,320m).

 <黒ボコ岩> 
   ↓35分
▼室堂(11:50〜12:30) …弥陀ヶ原,五葉坂を経由.ビジターセンター(標高2,450m)で宿泊手続きを済ます.
             部屋に荷物を置き,白山(御前峰)登頂へ向かう.

 <弥陀ヶ原の木道> 

 <室堂ビジターセンター> 
   ↓45分
▼御前峰山頂(13:25〜13:40) …360度の眺望(標高2,702m).

 <御前峰山頂> 

 <翠ヶ池> 
   ↓105分(お池めぐり)
▼室堂(15:25) …ビジターセンターでビールを飲んで休憩.
 

 

 
歩行 6時間30分(起点:降車した地点)
休憩 2時間5分(乗車時間,宿泊手続時間等含む)   計 8時間35分
 

第2日(27日/木曜日/天候:晴)
▼室堂(5:35) …夜明け前に出発.

 <夜明け前の白山比盗_社奥宮社務所> 
   ↓45分
▼千蛇ヶ池分岐(6:20〜6:25) …標高約2,590m.

 <万年雪の千蛇ヶ池> 
   ↓10分
▼大汝峰登り口分岐(6:35) …中宮温泉へ至る中宮道との分岐点(標高約2,600m).

 <登り口分岐の標識> 
   ↓20分
▼大汝峰山頂(6:55〜7:00)…標高2,674m.山頂はなだらかで広い.

 <大汝峰山頂> 
   ↓15分
▼大汝峰下山口(7:15) …大汝峰を巻く道との合流点(標高約2,585m).

 <下山口> 
   ↓45分
▼北竜ヶ馬場(七倉の辻)(8:00) …標高約2,500m.岩間道,釈迦新道そして加賀禅定道の分岐点.

 <北竜ヶ馬場の標識> 
   ↓20分
▼四塚山(8:20〜8:35) …四つの塚がある.ここで朝食(弁当)をとる(標高約2,500m).

 <四塚山にある塚> 
   ↓20分
▼長坂(8:55) …標高2,393m.油池までだらだらと下る長い坂が続く.

 <長坂の標識> 
   ↓30分
▼広場(9:25〜9:30) …標高約2,190m.ここで小休止.

 <ちょっとした“広場”> 
   ↓20分
▼油池(9:50) …小さな池(地塘)がある(標高約2,070m).

 <油池> 
   ↓55分
▼天池(天池室跡)(10:45) …“あまいけ”と読む.尾根上にある池としては比較的大きい(標高約2,110m).

 <天池> 
   ↓25分
▼木道終点(11:10) …見晴らしの良い湿原を通る(標高約2,040m).

 <木道終点付近> 
   ↓20分
▼百四丈の滝展望台(11:15〜11:20) …遙か下に滝が望める(標高約2,030m).

 <百四丈の滝展望台標識> 
   ↓20分
▼美女坂頭(11:35) …彼方にポツンと赤い屋根の避難小屋が見える(標高約1,950m).

 <美女坂頭の標識> 
   ↓40分
▼坂を下った鞍部(12:15) …ここより足(膝)が痛くなり急激にスピードダウン(標高約1,740m).

 <美女坂を振り返る> 
   ↓20分
▼奥長倉避難小屋(12:35〜12:50) …ハイドレーションバッグにスポーツ飲料を補給(標高約1,730m).

 <赤い屋根の奥長倉避難小屋> 
   ↓60分
▼長倉山山頂(13:50) …登山道の脇に山頂がある(標高1,660m).

 <三角点と質素な山頂標識> 
   ↓50分
▼しかり場分岐(14:40) …檜新宮参道と加賀新道の分岐点(標高約1,550m).

 <分岐にある標識> 
   ↓25分
▼加賀新道緑の谷峠(15:05) …標高約1,450m

 <緑の谷峠> 
   ↓85分
▼林道(16:30) …登山道は林道で分断.約10m程先に下りの登山道がある(標高約1,140m).

 <林道脇の標識> 
   ↓20分
▼一里野温泉スキー場(16:50〜17:00) …スキー場最上部のゴンドラ駅到着(標高1,050m).

 <ゴンドラ山頂駅> 
   ↓60分(林道歩行)
▼林道(のだいらゲレンデ下部付近)(18:00) …1時間の林道歩きの後,宿のワゴン車にピックアップしてもらう.
 

 

 
歩行 11時間45分
休憩 40分(弁当の時間含む)           計 12時間25分
 

 
 今年の夏も昨年同様,不安定な天候が続いた.特に雷雨が頻繁に発生し,登山中に雷に撲たれる人もいた.そんな訳で本年も南アルプス仙塩尾根縦走を,断念せざるを得なかった.そこで9月に北アルプス針ノ木岳を巡る3泊4日の縦走を計画したが,これも悪天候が影響し断念.しかも3日目に泊まる予定の新越山荘が,9月下旬に営業終了となっている.そんなこともあって,かねてよりいつか登ろうと思っていた日本三名山(富士山,立山,白山)のひとつ「白山」に登ることに決めた.富士山,立山は登ったので,白山に登れば日本三名山完登となる.
 ネットで週間天気予報を調べると,9月25日(火)〜28日(金)の間は比較的天気が良さそうだ.出発日を9月25日とし,白山登山は26・27日の2日間とした.同じ場所(登山口)へ戻って来るのは面白くないので,2日目は「岩間道」を経由して新岩間温泉へ降りようとした.早速,新岩間温泉唯一の旅館である山崎旅館へ宿泊予約の電話をいれる.すると意外なことに『27日は風呂の配管修理をするので旅館は休みにしとります』という何ともつれない返事.
 こうなると残された選択肢は次の三つとなる.
@「釈迦新道」を通って市ノ瀬へ下りる.
A別山(標高2,399.4m)に登って「別山・市ノ瀬道」を辿り,市ノ瀬へ下りる.
B「加賀禅定道」を辿り白山一里野温泉へ下りる.
@及びAはそこそこの距離があり,それなりに面白そうだ.また下山場所である市ノ瀬は,前泊する永井旅館があるので都合がいい.一方,Bは縦走の醍醐味を味わえるし,ルート上に見どころも多く最も魅力がある.だが如何せん,何分にも距離が18.2 kmと長過ぎる.果たして歩けるだろうか?不安が付きまとう.ちなみに岩間道は12.0 kmである.
 迷った挙げ句,Bの「加賀禅定道」を思い切ってチョイス.『去年,ロングコースの読売新道も歩いたことだし,何とかなるんじゃないの』てな感じの軽ーい気分で決定!早速,一里野温泉「ホテルニュー白山」に予約を入れる.この温泉ホテルには,以前何回かスキーで泊まったことがある.手元の“マイ・スキー記録簿”をひも解けば,一里野温泉スキー場へは過去6回訪れている.そんなこともあって,一里野への思い入れはひとしお強い.最後の訪問は1991年1月なので,ざっと21年ぶりとなる.
 
《加賀禅定道》
【禅定道とは信仰のために山頂へ登るための道で,白山には三つの禅定道があった.加賀禅定道はそのうちのひとつで平安時代に開かれたとされる歴史ある道で,加賀側の表参道として栄えた.昭和初期から廃道となっていたが,昭和62年(1987年)に復活され,第46回石川国体(1991年)では山岳競技の会場となった.一里野温泉スキー場又は一里野ハライ谷から白山室堂までの登山コースで,全長18.2 kmと距離が長い.なお全行程を通じ,よく整備され特に危険な箇所は無い.】
 

 
第1日(26日/水曜日/天候:晴)
 
 本日は交通規制(マイカー規制)が解除されているので,登山口である別当出合までマイカーで入れるのだが,明後日,一里野温泉からここ市ノ瀬までタクシーで戻らなくてはならない.そのことを考えると旅館の駐車場に車を置いといた方が得策だ.旅館の車で登山口である別当出合まで送ってもらう.登山口への送迎は,チェックイン時に依頼しておいた.6時50分,同宿していた初老の夫婦と共にワゴン車に乗り込む.この夫婦は明日再び市ノ瀬に戻り,永井旅館に再度宿泊するそうだ.約15分で別当出合のゲート前に着く.ここから林道を歩くこと10分少々で登山口に至る.
 

 <永井旅館(前日に撮影)>

 
 7時20分,別当出合登山口(標高1,260m)を出発する.いきなり砂防新道と観光新道の分岐標識が現れる.ここは迷わず右の砂防新道へ.何故ならこのルートが室堂への最短ルートだからだ.明日の「加賀禅定道」に備え,パワーを温存しておかなければならない.長い吊り橋(別当出合吊橋)を渡り尾根に取付く.登山道は幅が広く整備が行き届いている.その名の通り,樹間から何段にも連なる砂防ダムが見える.現在も工事中の所もある.なんでも白山は日本の砂防工事発祥の地とされているとか.中飯場(標高1,550m)には水洗トイレが有り,立派な石のベンチとテーブルが設けられているが,休憩するにはちょいと早い.
【登山口より40分】

 <砂防新道と観光新道の分岐>


 <砂防ダム(吊り橋から望む)>

 
 中飯場前広場からしばらく石を敷き詰めた階段が続く.途中,観光新道の尾根が見渡せる登山道脇に,腰掛けにうってつけの石が鎮座している.この石に腰掛け,1回目の休憩をとることにした.昨晩,やや酒を飲み過ぎたせいかすぐに息が上がり,足もついてこない.約10分座り込んでいる間に,7〜8人に抜かれてしまった.重い腰を上げ,10分ほど登ると別当覗(標高1,750m)に着いた.ここから別当谷の崩壊跡が覗けるとあるが,生い茂る下草に遮られ上部しか見えない.それでも大崩壊の迫力は感じ取れる.右上方にはこれから登る黒ボコ岩が小さな点となって,彼方の尾根上に望める.あの峰を越えた向こう側が弥陀ヶ原だ.ここで靴紐をきつめに縛り直し,心機一転を図る.
【中飯場より50分】

 <中飯場広場から始まる石段>


 <別当谷崩壊跡>

 
 しばらく樹間の道を辿ると,やがて徐々に視界が開け出す.クマザサに覆われた見晴らしの良い高飯場跡に着いた.ここには縁台が4脚置かれている.ザックを下ろし縁台に腰掛け一服するが,日陰がないので暑い.早々に立ち去ることにする.ここより登ること2〜3分足らず,甚之助避難小屋(標高1,975m)に着いた.無人の山小屋であるが,昨年建て替えられたばかりで設備は行き届いている.水道・水洗トイレ完備で,小屋前の見晴らし抜群の広場には,真新しい木製のベンチ・テーブルが設置されている.如何にも快適そうなので,ここでもトイレを兼ねて休憩をとることにした.
【別当覗より50分,登山口より2時間20分】

 <甚之助避難小屋>


 <広場からの眺め(南方面)>

 
 5分の休憩の後,出発.25分で南竜道との分岐点(標高2,100m)に着く.ここでもまたまた5分の休憩.やはりマイ・ペースで登るのが一番だと,つくづく思う.ここより登山道は,ほぼ等高線に沿って緩い登りとなる.落石注意の看板を見ながら,沢をいくつか渡ると三ノ越(標高約2,230m)に着く.いよいよ十二曲がりと呼ばれる急坂に取付く.たちまち息苦しくなり,何度も立ち止まって息を整える.今まで登ってきた別当谷方面を振り返れば一望に見渡せ,眺望を楽しむ.そんなことを繰り返していると,岩陰から湧き出ている延命水に行き当たる.この水を一口飲めば,10年長生きすると云う.早速,備えられている竹のコップで一気飲み.黒ボコ岩(標高2,320m)到着はジャスト11時.
【甚之助避難小屋より1時間20分,登山口より3時間40分】

 <南竜道分岐>


 <分岐から甚之助避難小屋方面を見下ろす>


 <三ノ越への登山道(右上部に黒ボコ岩)>


 <十二曲がりから登ってきた道を見下ろす>


 <延命水>

 
黒ボコ岩はその名の通り黒くてデコボコした大岩の集合体である.十二曲がりの急斜面に迫り出し,ゲートの如く鎮座している.事実,弥陀ヶ原への玄関口であり観光新道との合流点でもある.いくつかある岩のうち,ふたつの大岩には上には登ることが出来る.この岩の上に立って眺める景色は,また格別だ.ここで休憩と写真撮影に15分を費やす.

 <黒ボコ岩上部>


 <黒ボコ岩から十二曲がりを見下ろす>

 
 ここからいよいよ弥陀ヶ原に入る.登山道は平坦な木道となり,歩きやすい.しかし,せっかく来たのだから景色を楽しみながらゆっくりと歩こう.それにしてもこれほど広大な,しかも山頂付近に平らな地形があるとは驚きだ.7〜8月の夏山最盛期には高山植物が咲き乱れ,さぞかし美しく見応えのあることだろう.弥陀ヶ原先端の木道終点から,五葉坂と呼ばれる石段の急坂が待っている.約10分掛けて登り切れば,室堂ビジターセンター(標高2,450m)が正面に現れる(11:50).その後方には御前峰(標高2,702m)がどっしりと聳えている.
【黒ボコ岩より50分,登山口より5時間20分】

 <弥陀ヶ原と五葉坂>


 <五葉坂から弥陀ヶ原を見下ろす>

 
 センターで一息ついてから,宿泊手続きを始める.宿泊棟は別棟なので,係員に部屋まで案内してもらう.大部屋には他の人のザックは見あたらないので,本日一番乗りだ.なお今年から小部屋タイプの「白山雷鳥荘」がオープンし,3〜4人で一部屋に泊まれるらしい.さて,御前峰登頂を目指し準備に取り掛かる.サブザックに必需品のみ詰め込み,身軽な装備でいざ,山頂アタック!その前にトイレを済まし,センター内の売店でお茶を購入.
 
 ここでトイレの話.室堂宿泊棟には簡易水洗トイレがあるが,現在改修工事中で使えない.その代替えとしてプレハブトイレが設置されている.しかしこのトイレ,どれもほぼ満タンに近く,臭くて汚くてとても用が足せる状況ではない.そこで宿泊棟より離れているが,屋外便所を利用することにした.この屋外便所も汲み取りであるが,プレハブトイレよりは遙かに“まし”だ.私ら団塊の世代は,みんな汲み取り式便所で育ってきた.が,このプレハブトイレには閉口したし,どうにも我慢できなかった.水洗便所+ウオシュレットで育った若者たちは,どうしたのだろうか?
 
 センター裏手の広い中庭では,大勢の登山者がくつろいでいる.白山比刀iしらやまひめ)神社奥宮社務所の鳥居をくぐり,いよいよ御前峰(ごぜんがみね)へ登山開始(12:30).取り付きは勾配も緩やかであるが,疲れた体には結構応える.ほぼ中間地点の高天原で茶を飲んで休憩.ここから坂がきつくなり,息も荒くなる.度々立ち止まっての小休止を繰り返す.神社奥宮の石垣が頭上に見えるが,なかなか近づかない.55分(通常は40分程度)の苦闘の末,やっと御前峰頂上(標高2,702m)に立つ.頂上からの眺めは正に周囲360度.目前には荒涼とした剣ヶ峰(標高2,677m)と大汝峰(標高2,684m)が一望できる.振り返れば室堂センター,弥陀ヶ原,南竜ヶ馬場,さらに遠くに別山(標高2,399.4m)が見渡せる.なお,剣ヶ峰には登山道が無いので登るのは困難だろう.
【室堂センタ−より55分】

 <室堂センター,別山方面を振り返る>


 <山頂直下の登り>


 <白山比盗_社奥宮>


 <左:大汝峰,右:剣ヶ峰>


 <御前峰頂上>

 
 大方の登山者はここより室堂へ引き返しているが,私の場合,“お池めぐり”をしなくてはならない.何故なら明日はロングコースの「加賀禅定道」を踏破しなければならない.ゆえに今日出来ることはさっさと済ましておかねばならない.明日は余分な時間など無いのだ.早速,山頂を越えてお池めぐりに出掛ける.岩塔の御宝庫(おたからぐら)からジグザグの急坂を下り,火口の底に降り立つ.まず最初に紺屋ヶ池を巡り,続いて翠(みどり)ヶ池に達する.翠ヶ池は白山火口湖の中で最も大きな池である.満々と瑠璃色の水をたたえたその姿は,どこか神秘的でもある.しかもここまで歩いて来なければ,その姿を拝むことが出来ない.御前峰山頂からは,手前の岩山が邪魔して全く見えないのだ.

 <翠ヶ池>

 
 翠ヶ池を後に先に進むと,血の池を経由して大汝峰への分岐に突き当たる.登山口はすぐそこにあるのだが,残念ながら手持ちのお茶が残り少なくなっている.そこで登頂は断念して,明日登ることにした.加賀禅定道はこの分岐を通るので問題ない.次の千蛇ヶ池は,池と言うより雪渓である.意外と陽当たりがいい場所なのに,万年雪が溶けずに残っているとは驚きであり不思議なことだ.ここから室堂へはふたつのコースがある.ひとつはハイマツ帯の斜面を突っ切るコースで,室堂近道とある.もうひとつはお花畑コースで距離が0.6 km長い.迷わず近道を選ぶ.しかしこの登山道は最初は良かったが,すぐにゴロゴロした石が転がる道へと変わり,大いに歩きにくかった.明日はお花畑コースを行くことにしよう.室堂センター到着は15:25.一周するのにざっと3時間近く掛かった.

 <血の池>


 <千蛇ヶ池>


 <室堂近道>

 
 先に明日の準備をしておかねばならない.売店でスポーツ飲料 500ml×3本,お茶1本それに缶ビール1本を買い込む.昨年の読売新道では飲み物が足りなくなった反省を踏まえ,多めに準備する.缶ビールはセンター内の休憩所で飲んだ.ここ室堂センターではゴミはすべて持ち帰り.たとえ売店で買ったものでも例外ではない.ペットボトル,空き缶,空き袋等全て対象で徹底している.そんな訳あって,もっともっとビールを飲みたかったが,僅か1本で我慢した次第.
 
 部屋に戻って明日の準備を手早く済ます.ハイドレーションバッグ(容量:1リットル)にスポーツ飲料を追加充填.本日は4分の1程度しか飲んでいない.一通り準備を整え,まず一安心.5時から始まる夕食まで,デジタルプレイヤーで演歌・歌謡曲を聴きながら,寝転がって待つことにした.
 

 
第2日(27日/木曜日/天候:晴)
 
 夜中に目が覚めた.『3時かな?4時かな?』と思って腕時計を見ると,まだほんの12時前.これ以降,目が冴えて眠れなくなった.寝返りをうちながら2〜3時間起きていただろうか?今度目が覚めたときは,5時だった.『おっとしまった!寝過ごしちゃった!』跳び起きて慌てて出発の準備をする.勿論,周りの人たちは眠っているので,音を立てないよう注意を払う.取り合えず荷物を全部廊下へ出してから,屋外トイレへ向かい洗面も済ます.水が非常に冷たいが,心地よい.おかげでシャキッ!と目が覚めた.
 
 室堂センター出発は5時35分.予定より35分も遅れた.夜明け前だが結構明るく,ヘッドランプは必要ない.いよいよ「加賀禅定道」へ足を踏み込むその時が来た.昨日,下見をしておいた裾野をまわるお花畑コースをとることにした.このコースは,小部屋タイプの「白山雷鳥荘」の前が起点となる.雷鳥荘から出てきたばかりの夫婦と朝の挨拶を交わす.よく見ると永井旅館で泊まっていた夫婦連れだ.「どちらへ?」と聞かれたので「一里野温泉です」と答えた.一里野温泉が何処にあるのか,どうやら地理的状況が判っていない様子に見受けられた.彼らは御来光を見に行く途中だった.
 
 昨日辿った近道コースと違って,お花畑コースは思った通り歩きやすい.順調に水平道を飛ばすが,千蛇ヶ池分岐下の登りは少々きつい.途中で暑くなり,ウインドブレーカを脱ぐ.思ったより気温は高いようだ.千蛇ヶ池分岐には6:25着.先ほどブレーカを脱いだ時に休憩したので,先を急ぐ.分岐より約10分で大汝峰登山口へ.ここは中宮温泉へ向かう「中宮道」の分岐点でもある.このコースは20.0 kmと長いので,踏破するには避難小屋で1泊する必要があるだろう.

 <早朝のお花畑コース>


 <千蛇ヶ池分岐>


 <大汝峰登り口分岐>

 
 大汝峰(おおなんじがみね)への登山道は急であるが,登山口から20分で山頂(標高2,674m)へ到着(6:55).山頂には大汝神社がある.なお大汝峰には巻き道があり,この道を通れば山頂を経由せずとも楽に行ける.さて,下から眺めるのとは異なり,山頂はなだらかで広い.無論,360度遮るものがないので眺望は極めて良好.ここから眺める御前峰と剣ヶ峰は岩肌がゴツゴツと露出し,その荒涼とした風景は別世界の雰囲気だ.手前には蒼い水を満々と湛えた翠ヶ池が,アンバランスなコントラストを際立たせている.反対側の北方にはこれから歩く,緑に被われたなだらかな山容の峰々が続く.
【室堂センターより1時間20分】

 <登山道から大汝峰山頂を見上げる>


 <山頂より眺める御前峰(右)と剣ヶ峰(左)>


 <大汝神社>

 
 7時に山頂を後にする.巻き道との合流地点(標高約2,585m)まで15分.北竜ヶ馬場の鞍部が彼方に望める.ここより白山随一と云われるハイマツの尾根道を下ってゆく.鞍部(標高約2,465m)には御手水鉢がある.大岩の窪みに水をたたえ,涸れることがないとされる.再び道は緩やかな登りとなり,ハイマツの中を往く.北竜ヶ馬場(標高約2,500m)には8時到着.ここは「七倉の辻」とも呼ばれる.その名の通り岩間道,釈迦新道そして加賀禅定道の分岐点である.当初ここで朝飯の弁当を食べようと予定していたが,絶えず冷たい風が吹きつけるので先延ばしとする.
【大汝峰より1時間,室堂センターより2時間25分】

 <あの尾根の彼方のそのまた先まで歩く>


 <鞍部にある御手水鉢>


 <北竜ヶ馬場>

 
 塚のある四塚山(標高約2,500m)まで20分(8:20).平らな台地にこぶし大の石を積み重ねた塚が四つある.この塚には悪行三昧を働いた四匹の猫が封じ込まれているという伝説がある.ここで一里野から登って来たという青年に出逢った.現在8時20分.すると3時間少々でここまで来たということになる.持ってる荷物はごく小さなザックのみの身軽な恰好だ.山岳マラソン(トレイルランニング)のように駆け足で登って来たのだろう.それにしても凄い!本日このルート上で出逢った登山者は,このアイアンマンひとりのみ.
【北竜ヶ馬場より20分,室堂センターより2時間45分】

 <釈迦新道が通る尾根筋遠望>


 <四塚山を駆ける青年>

 
 ここから向かい側の尾根の斜面につけられた岩間道が,一望に見渡せる.腰掛けに丁度よい丸太もあって,弁当はここで頂くことにした.山小屋の弁当にしては珍しい,ちらし寿司を頬ばる.なお,弁当は同じものをもうひとつ持っている.今回は行程が長いので,昼ぐらいに食べようと予備として追加購入した.飲み物はハイドレーションバッグ内に1リットル,ペットボトル 500ml×3本プラス4分の3,さらに非常用として500mlのプラティパス(樹脂製水筒)を忍ばせている.であるからザックは通常よりかなり重くなっている.

 <向かいの尾根に岩間道>

 
 ここで朝食を含めて15分の休憩をとる.やっと室堂から歩くこと4km.一里野までまだ14 kmもある.行程は全体の22%進んだだけ.先を急がなければならない.重いザックを担ぎ出発することにした(8:35).ハイマツの生い茂る尾根道をどんどん進む.見晴らしがいいので気分もすこぶる良好.それに加えて雲ひとつ無い秋晴れの好天に恵まれ,もう何も言うこと無し!存分に縦走の醍醐味を味わう.これから歩くであろう尾根が,何処までも続いている.この光景を見れば『あんな所まで歩くのか!』とため息が出るのも無理もない.四塚山から油池までの尾根筋は,長坂と呼ばれている.文字通りだらだらと長い坂が続く.20分で「長坂」の標識に(標高2,393m)に到着.さらに30分歩いた所にちょっとした広場があり,ここで5分の休憩.長坂を下りきった鞍部(標高約2,070m)に油池という池塘があり,そこから5分下った所には,水飲み場があるようだ(9:50).一里野まであと12 km.
【四塚山より1時間15分,室堂センターより4時間15分】

 <ハイマツに被われた長坂>


 <油池>

 
 これ以降,尾添尾根の斜面につけられた水平道を歩く.右手には広大な清浄ヶ原がひろがり,雄大な自然をひしひしと実感することが出来る.油池より35分でやや下った鞍部(標高約2,060m)に到着.ここからいきなり急な登りに差し掛かる.10分ほどで尾根の頂に達し,再び天空の道を往く.まもなく天池(あまいけ,標高約2,130m)に行き当たる.尾根上にある池としては大きい方だ.沸かせば飲用可と地図に記載されている.池のやや上方に室跡の石垣が見える.天池室跡(又は加賀室跡)と呼ばれ,江戸時代の後半まで数棟の宿泊所があったとされる.一里野まであと10.5 km.
【油池より55分,室堂センターより5時間10分】

 <尾添尾根>


 <清浄ヶ原>


 <四塚山(中央)及び長坂方面を振り返る>


 <向かいの尾根を登る>


 <尾根上の水平道>


 <天池,右上の石垣が室跡>

 
 天池より15分で道は湿原の中を通る.木道が整備され周辺には地塘が散在する.木道はすぐに終わると思っていたが,これが結構長い.途中,写真を撮るのに立ち止まったりしたが,渡り終えるのにおよそ10分を要した.この後すぐに百四丈の滝が望める展望台(標高約2,030m)に着く(11:15〜11:20).滝は遙か彼方の足下に望めるが,大きな滝であることは実感できる.その名のとおり落差約 90 mもあり,水量も豊富で迫力がある(1丈=3.03m).しかも滝の裏側,すなわち滝壺の奥へ回り込める“裏見の滝”でもあるそうな.しかし残念なことに遊歩道が無いので知られていない.勿論,私もここに来るまで知らなかった.さて,展望が開けているのはここまでで,以降は灌木の中の道となる.一里野まであと9.9 km.
【天池より30分,室堂センターより5時間40分】

 <天池と四塚山>


 <湿原>


 <百四丈の滝>

 
 丁度この辺りが行程の半ばとなる.現在11時20分.単純計算して一里野に着くのは早くても5時頃となる.美女坂頭(標高約1,940m)には11:35到着.ここより尾根は一気に切れ落ちている.向かいの尾根に続く登山道は線となり霞んで見えるほど.さらにその向こうに赤い屋根の避難小屋がチラリと見える.『エツ!まさか,あそこまで下りなくちゃいけないの!?冗談じゃない,勘弁してくれ!』と叫びたくなる.「人生には三つの坂がある.上り坂,下り坂そして“まさか”」いつぞやK前首相が話していた言葉を思い出した.美女坂頭の標識には奥長倉避難小屋まで30分とある.『このタイムは相当の健脚者を基準にしてるな』と長年の登山経験からピンときた.

 <美女坂頭から望む向かいの尾根>

 
 案の定,坂は極端にきつく,その上悪路で歩きにくくちょっと油断をすれば滑りそうになる.小枝とか笹に掴まり一歩一歩足元を確かめ,用心深くゆっくり下りる.崖を下っているのであろうが,幸い草木が生い茂っているので恐怖感はない.ここまでの加賀禅定道はよく整備されていた.しかしこの美女坂の区間は除外しなければならない.鞍部に着く頃にはすっかり足が痛くなり,膝はガクガク.手強い坂であった.これは予定外の想定外だ.心配したとおり“まさか”となった訳だ.標高差は約210 m.下りに要した時間は40分.奥長倉避難小屋(標高約1,720m)までさらに20分を要する.『トータル60分も掛かっちまった!ケッ,何が30分だ!でもこんなきつい坂がなんで“美女”坂なの???・・』とつぶやく.小屋前の登山道に座り込んで休む.ついでにハイドレーションバッグにスポーツ飲料を追加.本来ならここでお昼のお弁当をひろげるところであるが,何も欲しくないし,お腹も空いていない.ましてやくつろぐ時間的余裕など,今はない.息も整った10分後(12:45),足を引きづりながら出発.なお,避難小屋の少し手前に奥長倉山(標高1,771m)の山頂があった.一里野まであと8.5 km.
【美女坂頭より60分,室堂センターより6時間40分】

 <だいぶ下りてきた>


 <奥長倉避難小屋>

 
 小屋を過ぎてから登山道はだんだんと樹林帯の中へ入り,視界はさらに利かなくなる.ただひたすらせっせと歩くのみ.しかし,前述したように足が痛むので思うように歩けない.下り坂になると余計に痛くなるので,スピードは相当ダウン.奥長倉山と同様,登山道脇にある長倉山本峰(標高1,660.6 m)山頂には13:50到着.次の目的地,しかり場分岐(標高約1,550m)には50分後に着いた(14:40).地図では長倉山→しかり場分岐間20分と記載されている.なんとまぁ,2.5倍も余計に時間が掛かっているではないか!なお,ここは檜新宮参道と加賀新道の分岐点である.一里野までもうあと一息.この区間の所要時間は地図上では2時間30分だが,果たしてその時間通りに辿り着けるだろうか?
【奥長倉避難小屋より1時間55分,室堂センターより8時間5分】

 <しかり場分岐,左が加賀新道>

 
 左側の加賀新道へ進入.道幅が一段と広くなり,整備がよく行き届いている.歩きやすい道ではあるが,如何せん,足が痛くて思うように歩けないのがつらいところ.25分後に緑の谷峠(標高約1,410m)を通過(15:05).峠の標識には「一里野4.8 km」と記されている.次いで木実谷頭(このみだにがしら)通過(15:45).倒れた標識には,一里野まであと3.8 kmとある.さらに黙々と歩くこと40分,檜倉に至る(16:25).一里野まであと2.7 km.大分近づいてきた.

 <加賀新道(1)>


 <木実谷頭>


 <加賀新道(2)>

 
 そこから歩くこと5分,突然,林道(標高約1,140m)に飛び出した(16:30).『登山道は何処だ?』と見渡すが見当たらない.一瞬焦りながら探すと,少し離れた先に登山道はあった.案内標識が倒れ,しかも草木に埋もれていた.一里野まであと2.5 km.さらに20分の歩行の後,木製の展望台が見えた.その下方にはゴンドラ駅がある.ついに一里野温泉スキー場(標高1,050m)に到着(16:50).ゴンドラ駅の階段に腰掛けて,今夜の宿であるホテルニュー白山に到着が遅れる旨の連絡を入れる.
【しかり場分岐より2時間10分,室堂センターより10時間15分】

 <林道脇に倒れた標識>


 <加賀禅定道登山口(一里野側)>


 <ゴンドラ山頂駅>

 
 電話と休憩に10分費やし,さぁ出発(17:00).ところが下山する登山道が見当たらない.さっきの展望台の所にあるのか?だがあそこまで登り返すのはしんどい.そこで林道を歩くことにした.『ゴンドラに乗れたら,さぞかし楽ちんなのになぁ〜』と横目で恨めしく睨みながら,夕日に照らされたゴンドラ駅を後にする.舗装された道路,しかも坂道を下るのは足に相当応える.陽も沈み,辺りはだんだんと夕闇が迫る.約50分ぐらい歩いた頃,のだいらゲレンデの中間付近でケータイが鳴った.心配した宿の女将からだ.迎えを寄こしてくれるので現在地を伝える.のだいらゲレンデの下部付近の林道で,宿の車にピックアップしてもらう.6時10分ホテル着.ひとりなのに「歓迎 小川様御一行」の歓迎看板が掲げられているではないか!他に宿泊客はいないようだ.チェックイン時に市ノ瀬までのタクシー予約を女将に依頼する.早速,知り合いのタクシーに電話を入れてくれ,料金も交渉してくれる.一万円以上掛かると覚悟していたが,八千円でOKとのこと.出発は明朝9時とした.これで一息ついた.この後残されたミッションは温泉にゆったりつかり,酒を飲むだけ.それにしても疲れた.足も痛い.昨年の読売新道より遙かにハードだったことを,最後に付け加えてリポートを終えよう.


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(2012年10月記す)
−終わり−