徒然つれづれひとりごと



《#14.襲来!?第三次オイルショック 》
(総文字数 約4,300文字)
 毎年12月12日,京都清水寺で発表される「今年の漢字」に,昨年(2007年)は「偽」が選ばれた.政治,食品業界など,まさに"偽"で塗り固められた散々な年であった.さて,今年(2008年)の干支はネズミ(子年)である.ネズミは12支の始まりということで,昔から"めでたい"とか"縁起がいい"とか言われてきた.そこで今年こそ良き年になるよう祈念し,期待を寄せたいところである.
 
 ところが正月明け早々,原油高騰による諸物価の大幅値上げ攻勢が,どんと待ち受けている.庶民の収入は増えるどころか,景気低迷によりむしろ減少している.このような経済状態を専門用語で"スタグフレーション(stagflation)"と呼ぶそうな.つまり物価はどんどん上昇するが,収入は逆に減る傾向にある.そうなると自然に購買力は落ちてゆき,景気はますます悪化する.そんな訳で「今年の景気見通しは,例年にも増して極めて暗くなりそう・・・」と,悲観的な予想をせざるを得ない.
 
 原油高騰の煽りは,国民生活に多大な影響を及ぼす.値上げはガソリン,灯油はもとより日用品,食料品をはじめ生活必需品全ての分野に拡大する.大手企業は価格上昇分を,即,卸売り価格に転嫁してしのげる.公共料金も一方的に値上げ出来ようが,中小・零細企業はそう簡単に事を運べない.むしろ値上げだけは,極力避けなければならない.競争力に於いて,たちどころに負ける不利な立場に置かれているからだ.景気後退は,先の"実情にそぐわない改正建築基準法"による建築業界低迷と相まって,今後一層加速しそうだ.
 
 そんな訳で国内需要は,もはや到底期待出来そうもない.一方,自動車,電気機器(デジタル関連)ばかりでなく,ジャンルを問わず輸出を主とする企業は,すこぶる業績が好調のようだ.特にトヨタ自動車は売り上げ23兆円(2007年3月期)を超え,GMを抜いて世界一の自動車メーカーになろうとしている.全般的に言えることだが,これは従来の欧米先進国はもとより,経済新興国への輸出が急増したことが大いに寄与している.これからはアジア諸国,アラブ産油国,中国それにロシアが主要な貿易相手国になる.
 
 1月2日,ついにニューヨーク原油相場で一時100ドルの大台を突破した.現時点(2008.1)での原油価格は,1バレル(※1)=約99ドル前後を推移している.原油高騰の背景には先物取引,すなわちヘッジファンドの投機マネーの存在がある.サブプライム住宅ローン問題も,思わぬ引き金となっている.この金融混乱で資金を引き揚げた投機筋が,高騰する原油市場に目を付け,資金投入を開始したと見る向きもある.さらに産油国の有り余るオイルマネーも,一役買っているようだ.
(※1.バレルbarrel:ドラム缶が出現するまで,石油は樽に入れて運ばれていた.樽の語源はバレルで,1バレル=約158.987リットルとなる)
 
 勿論,投機マネーばかりでなく,驚異的な経済発展を続ける中国・インドの大幅な石油消費増も,大きな要因とされている.その他の新興国の経済も今後引き続き成長するとみられ,更なる需要拡大を引き起こすことが懸念される.特に中国は2007年8月開催の北京オリンピック,2010年5月〜10月開催の上海万国博覧会など巨大イベントを控えている.そう簡単に原油高騰の収まる気配はなさそうだ.気が付けばいつのまにか"第三次オイルショック"に遭遇,そして世界経済を根本から揺さぶり,振り回していた.第一次オイルショックは第四次中東戦争,第二次オイルショックはイラン革命にそれぞれ誘発されて起こった.いずれの時も紛争や革命が収まると共に終焉した.今回のオイルショックは作為的要素が強く,過去のものとは明らかに異なる.言いたくないが,どうやら長引きそうだ.
 
 余談であるが昭和48年(1973)の"第一次オイルショック"は日本中てんやわんや,上を下への大騒ぎをもたらした.トイレットペーパー,ティッシュ,洗剤など身近な生活用品がすっかり店頭から消え,一大パニック現象を巻き起こした.この時"買い占め""狂乱物価"という言葉が流行した.TV深夜放送は休止,ネオンサインも消灯,ガソリンスタンドの日曜休業などの措置がとられた.そして「ムダを省(はぶ)く」という意味で「省エネルギー」という新たな言葉が使われ始めた.省エネ技術の研究開発がスタートしたのもこの頃.さらにオイルショックを契機として,主要国首脳会議いわゆるサミット(summit)もこの時(1975)発足した.続く"第二次オイルショック(1978)"については,影響が軽微であったせいか,ほとんど私の記憶にない.いずれにせよ,当時の日本経済は右肩上がりの好景気だったせいか,大した心配もしなかったし不安もなかった.今回のオイルショックは"青天の霹靂(へきれき)"の如く,得体の知れぬ恐怖におののく.何故だろうか?
 
 いずれ近い将来,石油はこの地球上から枯渇するであろうことは,誰にも分かっている.1960年代後半には『あと30数年分しか持たない』と言われたものだ.その後の新油田の発見とか採掘技術の向上により,現時点での確認埋蔵量(※2)は,今後約60年分とされている.それにしても今世紀末頃には,石油は無くなるという計算になる.果たして本当だろうか?
(※2.2007年4月石油連盟発表)
 
 しかし,現在公表されている埋蔵量データは,どこまで信頼出来るか怪しいものだ.産油国にとって石油埋蔵量とは,軍事機密よりも重要な国家最高機密に相当するに違いない.その国の国益とか思惑により,過小または過大に提示している産油国もあろう.また今後,思わぬ大油田が発見されることも,大いにあり得る.いずれにせよ,地球の奥深く眠る資源であるので,予想の域にとどまることだけは確か.
 
 もし世界的に"脱石油"が順調に進めば,原油価格は否応なく確実に下がる.更に押し進めれば原油など不要となるが,これは理想としておこう.脱石油戦略の推進は,政府も力を入れているらしい.第一次オイルショックを契機にスタートした政策であるから,わりと古い歴史を持つ.主に電力などの一次エネルギー源の多様化が進められた.さらに第二次オイルショック時に,国際エネルギー機関(※3)が石油発電所新設を禁止した.既存石油火力発電所についても,石炭・LNG(液化天然ガス)への転換が促進された.
(※3.IEA:International Energy Agency.日本を含む26ヶ国が加盟している.第一次オイルショック後,米元国務長官キッシンジャー氏が提唱し設立された.)
 
 その効果あってか,我が国での火力発電所の占める割合は,およそ75%(1973)から50%台(2004)までに引き下げられた.その一番の立役者は,リスクの伴う原子力発電所であるから如何なものか?確かに原子力発電は安定して電気を供給出来るし,二酸化炭素をほとんど出さない.反面,放射性廃棄物の処理とか使用済み核燃料リサイクル問題を抱える.また原子力発電所に放射能漏れなどの事故はつきもの.しかも日本は世界有数の地震多発地帯にある.昨年起きた能登半島沖地震(2007.3)の震源地は,志賀原発(石川県志賀町)からわずか20Km先だった.さらに7月16日に発生した新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発の変圧器火災事故は,記憶に新しい.この時,東京電力の不手際な対応が問題となった.
 
 驚いたことにフランスでは,発電総電力量の約80%(2006)近くを原子力発電が占めている.運転中の原子力発電所は59基(2005)あり,アメリカの103基(2005)に次いでいる.ちなみに日本は55基(※4)で世界第3位であるが,発電電力量としては4分の1程度(2006)にとどまっている.さて,フランスは核保有主要5ヶ国のひとつであり,使用済み核燃料の再処理技術も確立している.資源に乏しいのは同様だが,核に対する考え方に関しては,唯一の被爆国である我が国と全く異なるのも一因であろう.地震に関してはたまに起こる程度で,大規模地震はここ100年来発生していないという.フランスの地殻は安定しているようだが,もし新潟中越沖クラスの地震が発生すれば,日本と較べて耐震性に劣るフランスの原発はどうなるのだろうか?
(※4.志賀原発の2基及び柏崎刈羽原発の7基は,現在(2008.1)稼働していない)
 
 ドイツは"自然エネルギー(または再生可能エネルギー)"への転換が最も進んでいる,環境先進国である.太陽光発電並びに風力発電ともに世界一を誇る発電量である.太陽光発電設置量はそれまで日本が世界一であったが,2004年にドイツに抜かれた.なお,太陽電池パネル製造では,日本が世界最大の生産国であることに変わりない.一方風力発電に於いては,ドイツは世界全体の約3分の1を占める.これほどドイツで自然エネルギーが普及したのは,政府の政策(※5)が効を奏しているに他ならない.この法律では,自然エネルギーで発電した電力の売電価格を通常より高く設定し,しかも電力供給事業者に対して優先的に買い取るよう義務づけている.
(※5.ドイツ「再生可能エネルギー法(2000.4制定,2004.8改正)」)
 
 さらにドイツではバイオマス(※6)の利用も盛んである.生ゴミの発酵により発生するバイオガスを燃料とする,バイオガス発電設備も増えている.廃棄物処理場にはコジェネレーション(電熱併給)設備を併設し,発電以外に熱供給にも積極的に活用している.また動力あるいは燃焼用燃料として,バイオマス原料から抽出する環境に優しい合成軽油"バイオディーゼル"の生産も始まっている.バイオディーゼルは世界で最もクリーンで多様なエネルギー源として注目を浴びている.
(※6.生ゴミ,家畜の糞尿,木屑など生物由来の有機性資源)
 
 この分野で欧米と比較すると,日本はまだまだ環境後進国の感は拒めない.地理的状況・気候などの自然条件,生活様式,政策の相違など様々な要件が関連し「ドイツにつづけ!」と一概に決めつけられないが,係る環境先進国を手本として良い点はしっかり見習う必要がある.政府も「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定しているようだが,積極的に取り組んでいるのか?
 
 それにしても人類は,余りにも石油に依存し過ぎてきた.現在享受している繁栄は,石油のお陰と言ってしまえばそれまでだが・・・いよいよこの辺りで見直す時機が来たようだ.石油・石炭それに天然ガス,つまり化石資源を消費することは,温室効果ガスを発生し,より地球温暖化を促進していることに繋がる.そこで一刻も早く,化石資源にとって替わる新たな資源,しかも環境に優しい資源を見付け,切り替えて行かなければならない.原油高騰を好機と位置づけ,"脱石油"すなわち"自然エネルギー"推進を早急且つ強力に推し進めるべきだ.
 
 輝ける未来へ導く人類発展のキーワードは,次の"合い言葉"にあると言っても過言ではない.
 
「石油から自然エネルギーへ」
 

(2008年 1月記す)


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