徒然つれづれひとりごと



《#2. 検証「金縛かなしばり」》
(総文字数 約3,100文字)
 あなたはかって「金縛り(かなしばり)※注1」を経験したことがありますか?私は軽い症例も含め,過去に数回程遭ったことがあります。私の体験も他の人の場合と同様、次のような内容でした。
【※注1:ここで取り上げる「金縛り」とは睡眠中に起こる“睡眠まひ(後述参照)”を指す】
 
 その日は休日だったので朝寝坊していた。時間は午前7時過ぎか?家内は既に起き出していたので、部屋にはひとりで寝ていた。なにかしら異様に重苦しい空気が漂い、ふと目覚めた。(実は眠っている?)。突然、何かが近づく気配を察知し、何気なく窓の外を眺めた。すると驚いたことに、得体の知れないなんとも気味の悪い影〜それは一見、黒い塊のようにも見えた〜が素早く屋根を伝わりながら、こちらを窺っている。『こっちへ寄るな!』と願う思いも空しく、気が付いた時にはその黒い影は、窓ガラスを素通りして既に部屋に入っていた。そしていきなりベッドで寝ている私の胸の上にのっかかった。その瞬間、どうにも息苦しく、もうたまらなく我慢出来なくなり、なんとしてでも払いのけようと必死でもがいた。しかし、手はおろか体は全く動かすことが出来ない。さらに助けを呼ぼうにも一言の声も発せない。ただ不思議なことに意識ははっきりしているのが、自分でも分かっていた。どうにかしてこの危機的状況を脱しようと必死になって動こうと、ありったけの力を振り絞り、全身の力を集中した。すると間もなく、あえぎながらもどうにかこうにか、体を動かすことが出来るようになった。そうしてやっと現実の世界に戻り、我に返った(目を醒ました?)途端、謎の黒い影は忽然と消え去っていた。満身に力を込めた時、大声を張り上げたような気もするが定かではない。あの黒い影は悪魔か、はたまた幽霊か?それとも単なる妄想・幻覚だったのか?そんなことを考えたり、生還を果たしたことに安堵したりして、しばらく寝床の中で呆然としていた・・・
 
 さて,何故金縛りという摩訶不思議な現象が起きるのだろうか?医学的には“睡眠まひ”と言われている。大抵の場合、寝入りばなか若しくは眠りから覚めようとしている時に、最も起こりやすいようだ。意識ははっきりしているのに体の自由が全く利かず、助けを呼ぶにも声は出せない。同時に体の上に何かが乗っかかり息が出来なくなったりする。あるいは体外離脱のように体がフワフワと浮き上がったと感じる人もいるという。これは脳からの指令が筋肉に伝わらず、体の自由が利かない状態にある、と説明されている。
 では、どうしてそのような状況に陥るのだろうか?これはレム睡眠と関係があるらしい。人は眠っている時、レム睡眠※注2(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)を繰り返している。すなわちレム睡眠では、ある程度脳が働いている。その時、眼球を動かす筋肉と呼吸筋を除いて、その他の筋肉は動かすことは出来ない。脳からの指令がシャットアウトされているからだ。金縛りが寝入りばなや目覚めの時に起こるのは、そのような理由があるからだとされる。
【※注2:レム睡眠:rapid eye movement sleep → REM sleep(急速な眼球運動を伴った眠り)】
 
 “夢”はレム睡眠時によく見るらしい。勿論、ノンレム睡眠時にも見るが、それは記憶に残らない。楽しい夢とか恐い夢を見て、思わずハッとして目覚め、『アァ〜、夢だったのか・・・』と我に返る。がっかりしたり逆に夢でよかったなぁ、と思ったことは誰しも経験したことだろう。そのような夢は、早朝、目覚める直前に見ることが多く、案外覚えている。このことからも金縛りと夢とは密接な関係があると考えられている。
 夢と言えば一番に思い出すのが、映画「エルム街の悪夢(1984年〜)」。鋼鉄の爪を持つ殺人鬼「フレディ」が夜な夜な夢に現れるというストーリー。眠れば夢を見る。そして必ずフレディが姿を現し襲われるので、迂闊に眠ることも出来ない。現実と悪夢が交錯した恐怖を描いている。全五作品。もうひとつ、黒澤明監督の「夢(1990年)」を挙げておかなければならない。この作品は監督自身が見たという夢の世界を、お伽話のように幻想的な手法を用いて八つのオムニバス形式で構成している。その他にも夢を題材とした映画は数多い。映画とか夢について話せば長くなるので、ここで一応置くことにしよう。
 
 次に金縛りに関係すると思われる事例を、私なりの観点から2〜3挙げてみよう。
〈その1〉
 金縛りとは全く逆の現象もある。深夜、睡眠中突然起きあがり、意識は無いのに勝手に歩き出すいう、いわゆる“夢遊病”だ。脳は眠っているので身体に指令を発することは不可能。それにも拘わらず、まるで起きているときの様にあちこち歩き回る。当然、脳は寝ているので本人はこの行動について何も覚えていない。
〈その2〉
 ナルコレプシー(narcolepsy)と呼ばれる病名を聞いたことがあるだろうか?この病気の症状は、夜間充分に睡眠をとっても日中強い眠気が襲ったり、強い感情変化(笑う、泣く、驚く、怒るなど)が起これば、体中の力が一気に抜けたりする。一般的に“過眠症”とか“居眠り病”と呼ばれている。この病気に罹ると、よく金縛りを経験するという。
〈その3〉
 事故とか病気などで、生死の境を彷徨ったことのある人たちも、一様に同じようなパターンの体験談を証言しているのは、注目すべき点だ。その内容をまとめると、おおよそ下記の通り。
《死んで体外離脱した魂が、自分の身体を真上から見ながら黄泉(よみ)の国へ旅立とうとした。そして三途の川を今まさに渡ろうとした時、誰かに呼び止められた。振り返ると身内や親族が集まり、帰って来る様手招きしている。又は三途の川の対岸に亡くなった先祖が立ち、『こっちへ来るな!戻れ!』と叫んでいる。その指示に従って引き返したら、昏睡状態から目覚め意識が回復、蘇生した。》
 思うに人が生まれ持つ、脳内の潜在的意識に何らかの形で作用し、働きかけているのだと考えられるのだが・・・なお、この体験は「臨死体験」又は「近似死体験」(Near Death Experience→NDE)と呼ばれ、現在、研究機関が発足し科学的な実証研究が為されている。
 
 では話を元に戻して、もし金縛りに遭って覚醒しなかったとしたら、一体どうなるのだろう?前述したように呼吸困難(痙攣)になる場合もあるので、最悪の場合、死に至ることも考えられる。眠っている時のポックリ病とか突然死【医学用語で「ブルガダ(Brugada)症候群」という】の発症例のうち、いくつかは金縛りに関係したものだと思う。事実、20〜30歳代が大部分を占めるという統計からしても、頷ける。(金縛りは比較的若いうちに起こりやすい→後述参照)なお、発作が起こる時間帯は、午前2〜4時頃が最も多いらしい。
 ずっと以前、金縛りについてウチの家内に訊いてみたことがある。よもや金縛りなど体験している筈がなかろうと高を括っていたが、予測に反し『ある、ある!そんなのあったわよ!』と即答が返ってきた。家内の話に依ると、二十歳前後(独身時代)の頃に2回あったが、それ以降、一度も起こっていないらしい。やはり個人差はあるようだ。しかし、その体験談は私の場合とほとんど同じで、空気が澱み黒い影が身体の上にのしかかって息が詰まり、身体は微動だに動かせなかった。しかもその“出来事”があったのは明け方だった、と言う。 
 
 以上、「金縛り」が起きる要因とか関連する話など、いろいろしてきたが、その根本的な原因はいまいちはっきり解明されていない。金縛りも夢を見ているのと同じであると言われるが、それにしてもどうして皆同じように異様な体験(又は感覚)をするのだろうか?夢ではそんなことはあり得ない。とにかく夢と幻想が入り交じった「特異な世界」であることは確かだ。事実,それを体験した人にとっては心霊現象あるいは超常現象と思い込んでいる人もいるようだ。
 
 幸いにも金縛りは、年を取ると起こらなくなる。事実、私が体験した年齢は、35才位までだったように思う。年を重ねると早寝早起きの習慣が身に付くからだろうか?睡眠が不規則だったり、睡眠不足だと起こりやすいと云うから一理ある。そう言えば若い頃、ひどい頭痛とか口内炎によく悩まされたことがあったが、今は全くない。何らかの関わりがあるのだろうか?いずれにせよ、金縛りは医学・科学的に説明のつかない“事象”のひとつであることに変わりはない。
 
(2006年1月記す)


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