徒然つれづれひとりごと



《#6.旅のすすめ》
(総文字数 約4,600文字)
【本編は筆者の延べ約9ヶ月余りに渡る海外の旅についての体験を元に,そのノウハウを要約したものです.なお,過去に筆者が記した紀行文から引用した箇所も一部あることをお断りしておきます.】
 
 世の中,随分と趣味・娯楽は存在する.ゴルフ,スキー,旅行,登山,釣り,ドライブ,映画,観劇など挙げていけば枚挙にいとまがない.「その中で何が一番楽しいか?」と問われれば,私は真っ先に『旅』と答えたい.
 
 『旅行』ではなく『旅』と答えたは,それなりの理由がある.一般的に『旅』と『旅行』の差異はなく,単なることばの言い回しの違いだけで,同じ意味とされている.しかし,これは極めて曖昧であり「はぁ,そうなんですか」と簡単には納得し難い.以前からぼんやりとその区別を,頭の中で思い巡らしていた.すなわち『旅行』の定義とは,あらかじめ決められた観光コースを多人数で巡る,いわば"団体旅行"を指すものであり,旅行代理店の催行する"パッケージツアー"の他に修学旅行,慰安旅行,研修旅行などを『旅行』と称する.なお,少人数でのパック旅行もこの範疇に入るだろう.参加さえすれば,後は何の苦労も心配も必要なく,効率的に連れて行ってくれる.
 
 一方,一人か二人,多くてもせいぜい数人程度の気の合った仲間たちが,自ら計画した旅程あるいは大まかな計画のみで出掛けようとするものを『旅』と位置づけたい.大抵の場合長期に渡るので,ゆったりした気分で時間にもとらわれない.自由気まま,気の向くままに方々を見て回る.反面,道中,否応なしに様々な問題に遭遇したりする.当然,それなりの苦労も伴うであろうが,後になれば自分だけの貴重な体験となり,忘れ得ぬ思い出になる."百聞は一見に如かず"と言われるように,何事も身を以て経験するのが一番.このように『旅』と『旅行』では,出発点から内容が根本的に異なる.全て自分たちだけで考え,自己責任において行動しなければならない.
 
 旅のひとつに「放浪」というのがある.この言葉を使うのは,私にとってはいささか抵抗があり,どうも受け入れられない.「放浪」の意味は"あてもなくさまよい歩くこと"とある.あてのない『旅』などあるのだろうか?人それぞれであろうが,国内外を問わず私にとっての旅の目的を列記すると次のようになる.
@まだ見ぬ未知の土地を訪れてみたい.
A大自然とか歴史的遺産をこの目でしかと見,そして愛用のカメラに収める.
Bその土地独特の美味いものを食し,併せて酒も飲む.
C行く先々での一期一会の出会い,雰囲気に浸るなど様々.
このように如何なる旅にも少なからず目的はあろうというもの.特に旅先での人との出逢いは,何に増しても印象に残るものである.そこで旅に関して「放浪」という言葉を使うのは間違っている!と声高にいぶかるのは私だけだろうか?はっきり言って「散歩」と「徘徊」ほどの差があると思う.
 
 「知らない国へ行って,ことばが通じなくても大丈夫か?」とよく聞かれる.大抵の国では英語が通じるので,さほど問題ない.多少個人差はあろうが,学校で学んだ英語力で十分対応可である.スペイン語圏とか中国語圏へ行くのであれば,簡単な会話集とか電子辞書を持って行けば安心出来る.要は自信を持ってはっきり発声すれば,相手も理解してくれる.日本では恥ずかしくて尻込みするような状況でも,外国ならば何の遠慮も無用.文字通り"旅の恥は掻き捨て"状態となり,自分でも驚くほど行動は大胆不適となる.まさに仮面ライダーの如く「変身!」.日本に来た外国人が,しばしば傍若無人ぶりを発揮するのも分からないではない.ところが私の場合,妙なことに一旦帰国すれば元のおとなしい小心者に戻っている.遠慮とか謙虚などの控え目な態度は,日本だけに通じる美徳であって,外国では何の意味も持たない.
 
 ことばよりも心配なのが病気.私は風邪と高山病を経験したことがあるが,本当に心細くなった.ホームシックに罹り,今すぐに帰国したいと思ったものだ.幸いなことに,いずれも大したことはなかった.そこで言うまでもなく海外旅行者保険は必須.次に心配なのが"お金".無くしたり盗まれたりしないよう,又使い過ぎないよう,くれぐれも気を付けよう.その他,宿泊先も頭を悩ますひとつである.交通便利で安くて程度の良いホテルを探すのは至難のわざであり,たとえ運良く見つかったとしても満室で断られることがある.そこでもし泊まったホテルが気に入らなければ,又数日連泊するのであれば,次の日,思い切って条件の良いホテルに移るのもひとつの手だ.なお,ユースホステルにしてもシーズン中は混み合うので,早めにチェックインすべし.
 
 食事に関しても気に掛かる点だ.東及び東南アジア方面では米食なので,さほど問題とならない.それでも日本の美味いご飯が恋しくなるが・・・当たり前だが欧米とかラテン諸国では,パン食となる.ご飯とみそ汁派にとって,一日三食,パン食ばかりではウンザリする.概して日本食レストランは高級店ばかりなので,ここは旅の期間中だけとあきらめ,今は我慢しよう.ヨーロッパのユースホステルには,たいてい自炊設備がある.コッフェルさえ持っていれば,飯は炊ける.小袋入りの米は,どこの食料品店でもスーパーでも売っている.
 
 重い荷物は旅の楽しさを半減するし,行動にも差し支える.あれもこれもと欲張れば,アッと言う間に荷物は膨らむ.別に探検に行く訳でないのだから,思い切って荷物は減らそう.出来ることなら手荷物は,機内持ち込みサイズ内に収めるのがベスト.ただし最近,機内持込み手荷物の制限(輸送禁止品)が大幅に強化されているので,特に注意が必要.また空港での保安基準も今後さらに強化される傾向にあるので,出発前にインターネットで要チェック.
 
 どうしても必要なものが有れば,旅先で購入すればよい.買ったものは土産物にもなるし,一石二鳥.衣類は着替えも含めてそれぞれ2着,下着は3着程度あれば十分.とにかくどれも速乾性の素材を選ぶことが重要.それから寒い時の対策として,コンパクトなウインドブレーカーも必要.寒い時は登山同様,重ね着で対応すればよい.なお衣類イコールすなわち荷物を減らすためにも,その地域で最も気候の温暖な時期を選ぶことは,言うまでもない.
 
 正直言って初めて訪れる国は,少々不安を伴うものである.しかし,心配は一切無用.2〜3日も滞在していると,バスとか電車(又は地下鉄)の乗り方も分かってくる.行動範囲が拡がるに伴い,だんだんとその国のことばとか習慣にも慣れ,たちどころに馴染んでくる.これはどういうことかと言うと,駅,バスターミナル,街路あるいは観光地に表示されている現地語の意味が理解出来,アナウンスを聞いてもおおよそ分かるようになる.さらに5〜6日も過ぎれば市街地図も頭に入り,たとえ他人に道を聞かれても教えることが出来る.特に人種が多様な国では,何の躊躇もなく道を聞いてくるので驚かされる.これは日本では全く考えられないことだ.その他,交通事情(発展途上国は車優先なので要注意),物価の把握,買い物及び食堂での注文の仕方などを会得すれば,もう順応したも同然.現地人と同様,快適に過ごせること請け合い.
 
 定年退職すれば暇を持て余すと思われる.しかし年を取るにつれて,体力と共に気力もガクンと落ちてくる.何をするにもメッチャ大層になって,重い腰は"動かざること山の如し"状態.例えば私の場合,釣りを例に取り上げると以下のような状況と相成る.
 ある金曜日の5時過ぎ,ケータイが鳴る.どうやら小舟を持っている釣り好きの悪友からのようだ.
「オイ、あした釣りに行くんぞ!ええな!」
「エッ、何だって!?釣りに行くってか!明日かぁ?明日はなぁ え〜と用があって・・・孫も来るし・・・」
などと何かと理由をつけて断ろうとすると,すかさず一方的に
「あかん!来なあかんぞ,分かったな!ほな,エサ準備して待っとるぞ!」
 このように半ば強制的に誘い出される始末.若い頃は何をするのも大層がらず、いつでもどこへでも出掛け、何でもやっていたのになぁ〜.困ったことに最近では仕事をするのも大層になってきた.フー,そんな訳で中高年にとっては"ひとり旅"などとんでもない話である.一ヶ月以上に渡る長期の旅など体力・精神的に無理があり,ちとしんどい.長くても精々十日ぐらい(船旅を除く)が限度でなかろうか?
 
 以上のことを総括すると旅,特に海外への長期の旅をするのは,言うまでもなく若いうちにやるのがベター.思い立った時に自由気ままにフィッと出掛けるのは,若い時しか出来ない.就職してから休暇を取るのは,このご時世,もはや不可能に近い.就職前かあるいは会社を辞めて実行するしかない.心配せずとも若い時の半年や一年ぐらいどうにでもなるし,この先いくらでもやり直せる.人生というもの,ほんのひと吹きの風にすぎない.二十歳ぐらいの頃までは,時間は永遠にあるように思えた.ところがどっこい.過ぎてしまえば,なんと時の流れの速いことよ!やりたいことは,今やるべき.これは旅のみならず,すべてについて言えることだ.
 
 若者は何事に対してもやる気十分且つ感受性も豊か.それにも増して実行力・体力が断トツに違う!きつい強行軍にも耐えられよう.一方,私のような中高年になると少々のことでは感動しなくなるし,口だけ達者になって文句ばかり言う.第一,動き回るのがおっくうになる.しかも贅沢に慣れきっているので,今更,若者たちのようにバックパックを背負って,貧乏くさい旅なんて出来っこないし格好悪い.旅は若いうちにやる,これが基本.少々意味合いが異なるかも知れないが"可愛い子には旅をさせよ"と言うではないか!
 
 それでは中高年の旅はどうすれば良いか?これについて少し考えてみよう.前述したように約十日前後を目安とするなら,手っ取り早い団体旅行しかないと思われるが・・・かって海外をひとり旅していると,現地の人や欧米からの旅行者たちに珍しがられ,不思議そうに次のように聞かれた.
「 Say, <おまえさん,日本人だろう?ひとりで旅しているのか?> What a surprise! 」
何故なら彼ら大多数は,日本人というもの皆団体で旅行をするもの,と思い込んでいた節がある.そのような団体旅行に参加し,名所旧跡をせわしく巡るのも,それはそれで面白いかも知れない.しかしどうせ行くのなら,どこか風光明媚な静かな地で,何も考えずゆったりとリゾートを楽しむ.クラブ・メッドのような高級クラスでなくてもいいから,そんな滞在型の旅をしたいなあ〜と思う今日この頃.ところが世の中そんなに甘くない!親は年を取るし,カミさんにはあれこれ文句を言われそうだし,とてもそのような余裕とか暇など全くないのが今の現状である.ア〜,出来ることならもう一度バックパッカーに戻りたいものだ!
 
 一度でも旅の魅力にはまると,もう抜けられない.まるでウィルスに冒されたように,何度でも旅に出たくなる.そして命ある限り旅を続けたい.旅は楽しい!人生最高の娯楽と言っても決して大袈裟ではない.何故,旅が楽しいのか?その問いに対して,私はいつも次のように答えている.
「人との出会があり・・・そして帰る家があるから・・・」


(2007年6月記す)


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