徒然つれづれひとりごと



《#9.どうなる地球温暖化》
(総文字数 約5,200文字)
 今年(2007年)の夏はかってない猛暑だった.7月までは冷夏の様相を呈していた.クーラーがさっぱり売れないとエアコン関係者は嘆いていたほど.ところが8月に入ってから気温は一気に急上昇.そしてついに8月16日,岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市でそれぞれ観測史上最高気温となる40.9℃を記録した.1933年に山形市で観測した40.8℃を上回り,なんと74年ぶりに記録を更新したと言うからたまげる.熱中症で倒れる人も後を絶たず,連日ニュースに取り上げられた.また電力消費量は過去最高を記録,あらゆる点に於いて記録づくめの熱く長い夏だった.
 
 猛暑の原因は"チベット高気圧"にあったという.通年ならばチベット高気圧は5月下旬頃インドシナ半島上空付近で発生し,6月半ばにチベット高原に移動してくる.ところが今年は発生メカニズムのパターンが少々異なったようだ.簡単に説明すると次の通り.
@インド洋の海水温が例年より1℃上昇したことにより,海水蒸発量が増える.
Aその水蒸気が雨雲となり,モンスーン気流に乗ってヒマラヤ山脈にぶつかる.
Bインド側ではグリーン・モンスーンと呼ばれる雨期のスコールをもたらし,山脈に沿って上昇気流を発生.
Cその気流がチベット高原の太陽放射加熱により熱せられ,膨張する.
D膨張した空気は,高原上空約8千mの対流圏上層まで空気を押し上げる.
このように発生した暖かい高気圧が,今夏はとりわけ勢力を増強.この高気圧が例年より2000 kmも東まで張り出し,日本をすっぽりと覆ってしまった.これが太平洋高気圧の上層に重なり(二段重ね)高気圧の層が厚くなって安定し,猛暑をもたらしたとされる.その他,ラニーニャ現象やフィリピン近海の対流活動の活発化も相乗効果として考えられている.なおチベット高気圧が勢力を拡大すると,中国長江(揚子江)流域の西部で大雨をもたらし,東部の中・下流域で干ばつが発生しやすいとされる.
 
 それにしてもインド洋の海水温がたった1℃上昇しただけで,遠く日本にまでその影響は及ぶ.温暖化は地球規模で影響し合うという証だ.このまま温暖化が進行すれば「2100年までに平均気温が5.8℃上昇する」とあるシミュレーションでは予測している.気温上昇がさらに加速する可能性もある.地球は一体どのようになるのか?北極海の氷原やアラスカ・グリーンランドなどの氷河は消滅.ポリネシア,モルディブ,セイシェルなどの小島は水没.日本は亜熱帯に属し,現在栽培されている農作物は壊滅的打撃を受け,やがては食糧危機へと向かう.巨大台風の脅威にさらされ,生活や経済に与える被害は甚大.このような地球滅亡的なシナリオになると,子供や孫の将来を憂うずにはいられない.
 
 思い起こせば1994年(平成6年)の夏も猛烈に熱かった.この年は空梅雨で,早くも6月からじりじりと真夏の太陽が照りつけた.日本各地,特に西日本が水不足に見舞われ,なかでも香川県高松市の状況はひどかった.高松市の水源の大半は,徳島県の池田ダムから分水する香川用水に頼っている.その大元である早明浦ダムが完全に干上がってしまったから打つ手なし.今や早明浦ダム渇水のシンボルともなっている旧大川村役場が,湖底から完全に姿を現した.そして"高松砂漠"は延べ139日間に及んだ.この年,ポリタンクが飛ぶように売れ,さく井業者は引く手あまたで超多忙,そして井戸ポンプと手押しポンプ(通称ガチャポン)はあっさり売り切れになったと聞く.余談であるが,かかる深刻な水不足にも拘わらず,徳島市では給水制限発令は一度も無く,普段通り水道を使うことが出来たのは有り難かった.
 
 一方,その前年の93年は記録的な冷夏であった.梅雨前線が停滞,連日豪雨にたたられ,日照不足と長雨の影響で米不足となった年でもあった.政府が緊急輸入した,あのまずいタイ米を食べたイヤ〜な記憶がよみがえる.両極端な天候,すなわち「異常気象」を初めて身を以て経験した2年間であった.なお,猛暑だった年の翌95年1月阪神・淡路大震災,3月に地下鉄サリン事件と世間を揺るがした未曾有な出来事が連続して発生.日本の行く末を案じずにはいられなかった.
 
 1990年以降,猛暑となる年が特に顕著に増加し始めている.驚いたことに2000年以降,03年を除いて毎年猛暑を記録している.猛暑となった年あるいは翌年には大地震が発生する確率が高いのも何か因果関係があるのか?それとも単にそれほど頻繁に地震が発生するようになったからなのか?地震発生数について言えば,70年代〜80年代はとりわけ少なかった.ところが90年代以降,増加に転じる.2001年以降今日(2007年10月)まで,その発生数は既に90年代を上回っている.何となく猛暑と何らかの因果関係があるように思われる.これはまことに不気味なことだ.今世紀前半にも起こるとされている東南海地震の脅威を予感せずにはいられない.なお,この地震によって富士山が噴火するという説もあるからただ事ではない.ちなみに富士山は死火山でも休火山でもなく,活火山なのだ.
 
 80年代半ばから暖冬傾向となり,スキー場が営業出来ない程,降雪量が少ない年もあった.最近では人工降雪設備のないスキー場は,営業が成り立たなくなっている.またヨーロッパ・アルプスでも異様な暖冬に見舞われ,積雪は例年の3分の1程度(2006年12月時点).スイス・フランスでは開業出来ないスキー場がほとんどで,スキーW杯も中止が相次いだとニュースは伝えていた.この暖冬異変は,なんと1300年ぶりと云う.欧州では2003年にも酷暑で約3万人が死亡するという非常事態に直面している.これは温室効果ガスがもたらす影響であると専門家は断言している.一方,日本で起こる暖冬の原因は,最近よく耳にする例の"エルニーニョ現象"だとされている.もうひとつの"ラニーニャ現象"が発生すると,反対に寒冬・猛暑になる事が多いらしい.
 
 異常気象は地球温暖化が全ての原因であるとは限らないとされるが,ひとつの大きな要素を占めていることは否定出来ない.1980年前半までは"地球寒冷化"が通説であった.地球温暖化の危機が叫ばれたのは,80年代後半とされている.1997年12月,地球温暖化防止京都会議で議決された京都議定書では,日本の割り当て削減目標は−6%.これは1990年の排出量を基準年としているが,その根拠は無い.ところでその後の温室効果ガス排出量は,減少するどころか逆に+8%増加(2005年度)している.2012年までに合わせて14%を削減しなければならない.こうなると削減目標達成は,もはや到底無理.我が国の温暖化対策が極めて遅れていることは,紛れもない事実だ.
 
 来年(2008年)7月,主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)でも地球温暖化対策が主要議題に上がる.議長国である日本がこんな状況では諸外国に対して示しが付かない.特に京都議定書後の次期国際的枠組(ポスト京都議定書)では,発展途上国の参加が不可欠とされている.前途は極めて多難なようだ.また京都議定書では中国もインドも温室効果ガス削減の義務がない.さらに世界最大の排出国であるアメリカが批准を拒否している.アメリカの参加は,ゴア氏(※)のような地球環境に関心のある,次期新政権を待たねばならないのか?2005年8月,ルイジアナ州ニューオーリンズを襲った巨大ハリケーン・カトリーナの警鐘を無視するのか?ただし,カルフォルニア州を含めた12州では,州独自の排出削減を定めているようだ.いずれにせよ最大排出国であるアメリカ,中国,インドを巻き込まないと,何ら議定書の意味をなさない.
【※クリントン政権時の副大統領.2000年の大統領選でブッシュ氏と争ったが,惜しくも敗れた.2007年ノーベル平和賞受賞】
 
 温暖化防止には化石燃料(石油,石炭,天然ガス)の使用を制限することが最も効果がある.そこで最近ガソリンに替わる燃料として,トウモロコシ,サトウキビ,小麦等の穀物から生成したバイオ燃料が脚光を浴び始めた.アルコール(バイオエタノール)燃料なので燃やしても二酸化炭素の発生がゼロに近いクリーン燃料だ.さらに生産(栽培)段階では光合成を行って二酸化炭素を吸収してくれる.この循環を"カーボン・ニュートラル"という.自然界にとっていいことずくめのようだが,実は大きな問題点をいくつか含んでいる.そのひとつが原料の確保.安定的に供給するには,大量の穀物が必要となる.これらは元々,人間と家畜の食用である.その分からバイオ燃料生産に回すとなるとたちまち生産不足に陥り,ひいては穀物価格の高騰を引き起こす.事実,トウモロコシ・小麦などの価格は,このところ急激に値上げされている.食料の大半を輸入に頼る我が国にとっては,重大な脅威となる.さらに今後バイオ燃料需要の増大に伴い,耕作面積をいかに確保するか.また更なる増産のため,森林伐採による開墾などの自然破壊が懸念される.このバランスを如何に保つかが,普及の重要なポイントとなる.
 
 アルコール燃料と言えばブラジル.ブラジルと言えばサトウキビ.ブラジルではサトウキビから生成したアルコールを,三十数年前から燃料として自動車に使用してきた.言わばバイオ燃料先進国だ.ガソリンスタンドには"ALCOOL(アルコール)"と書かれた計量器が用意されている.現在,アルコール専用車は400万台,アルコール混合ガソリン(フレックス)車は600万台以上走っているという.ブラジルの国土は広大(日本の約22.5倍)で,サトウキビは人や家畜が消費する以上に栽培出来る.それ故バイオエタノール生産量には余裕があり,世界生産量の約4割を占める.また生産コストも世界で最も安いので,バイオ燃料市場に於いて絶対的優位な立場にある.なお蛇足ながら,サトウキビの搾り汁をそのまま発酵させ,蒸留したのが"ピンガ".ブラジルで最もポピュラーで安価な酒である.現地人はコップにとくとくと注ぎ,ストレートに飲んでいるが,アルコール度数は45度前後とかなりきつめ.そこで通常"カイピリーニャ"と呼ばれるカクテルでいただくのが一般的.カイピリーニャの作り方は,至って簡単.小さく切ったライムをグラスに2〜3個放り込み,砂糖少々を加え搾る.ライムは取り出さず,この上によく冷えたピンガを注ぐ.最後にクラッシュアイスを入れ,軽くかき混ぜれば出来上がり.何とも口当たりさわやかなカクテルである.

【 ブラジル イグアスのガソリンスタンド 】






















 
 バイオ燃料は無尽蔵のエネルギー資源でもある.これを可能とするのは,広大な農地を有するブラジルだからこそであって,当然,国土の狭い日本には当てはまらない.これ程ブラジルで普及したのは,政策的にガソリンより安く価格を設定(60〜70%)したからと言えよう.2007年4月末,首都圏で試験的に発売したバイオガソリンが話題となった.フランスから輸入したエタノールを7%ガソリンに混入したものだが,ガソリンよりも高かったので,その差額分を経済産業省と石油連盟が負担していた.
 
 日本での普及の鍵は,ブラジルに倣って政策的にガソリンより安い価格に設定しなければならない.生活必需品であるガソリンに対して,現行の税金はあまりにも高過ぎる.税額は1リットル当たり53.8円(※).そして〈ガソリン税+本体価格〉に対し消費税が掛かる.これが悪名高き二重課税システムだ.なんと価格の約半分を税金が占める(2007.09).この税率をそのままバイオ燃料に適用したのでは,普及はおぼつかない.本気で普及させる気があるのなら,思い切った減税で望むしかない.政府はバイオガソリンの優遇税制を来年度(2008年)の税制改正要望に盛り込む積もりでいるが,中途半端なやり方ではダメだ.
【※「租税特別措置法」により1974年以降,2倍になっている.本来は約半分の28.7円】
 
 さて,地球温暖化は環境破壊は言うまでもなく,自然生態系へも悪影響を及ぼす.環境破壊では水不足,干ばつ,熱波,砂漠化,暖冬,集中豪雨,洪水,大型台風,ヒートアイランド現象,海水面上昇,海水温上昇,食料危機,感染症,大気汚染,森林火事,花粉症など多方面に渡り,挙げればきりがない.既にヨーロッパの熱波,アルプス・ヒマラヤそれにアンデスの氷河後退,永久凍土の消失,アフリカ中央部で乾期に大雨,北極海海氷面積が過去最小,南極氷塊の融解,農作物の高温障害,日本近海の海水温上昇(世界平均の3倍ペース),珊瑚の白化現象,相次ぐ竜巻の発生など確実にその影響ははっきりと目に見える形で現れ,我々に警告を発している.自然生態系への影響は,環境省レッドリストに如実に表れている.記載された絶滅あるいは絶滅危惧類が,前回の見直し作業(2006年12月)で大幅に増えている.さらに開発途上国を中心として,世界人口の急激な増加も不安材料に挙げられる.2050年には90億人を突破すると予想され,温暖化・環境汚染はもとより食糧・水不足を急加速させる.
 
 毎年,日本のどこかで集中豪雨・豪雪・地震など大きな災害が発生している.その土地の古くからの住人であるお年寄りのインタビューを聞くと,異口同音に次のような内容のことを証言している.
『なげぇ〜こと生きてきたが こげな どえれぁ〜めに遭うたのは 生まれて初めてのことじゃ!』
 
 かって誰も遭遇したこともない天災が,毎年のように次々と襲いかかっている.それにしても,このように異常気象がしょっちゅう起こると,異常は異常でなくなり普通のこととなり,ひとは慣れてしまう.この"慣れ"が危機感をそぎ緊迫感を無くす.しかし,今はまさに待ったなしの状況と言えよう.対策を先送りする余裕など,もはや一切無し.一刻も早く世界各国が利害対立を乗り越え,足並みを揃えて真っ正面から温暖化問題に取り組まなければならない.勿論,国・企業に頼るだけでなく国民一人一人の環境に対する意識高揚も必要不可欠なことは承知している.さぁ,ムダ話を省いて,まず自分が出来る簡単なことから取り掛かろう.さし当たって節電・節水に努め,ごみ減量・分別を徹底し,リサイクル率を上げよう!


(2007年 10月記す)


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