徒然つれづれひとりごと



《#10. 杞憂きゆうなる国「ニッポン」 〜 PART 2 〜 》
(総文字数 約4,550文字)
杞憂(きゆう):いらざる心配。取り越し苦労。よけいな心配。
昔、杞の国に非常に心配性の人がいた。いつも天が崩れ落ちはしないかと心配して、夜も眠られず、飯ものどを通らなかったという。(故事「列子」より)


 去る9月12日、安倍首相(当時)が唐突に退陣を表明し政権を投げ出したのは、まさに晴天の霹靂(へきれき)だった。それも臨時国会で所信表明演説をし、代表質問に臨む直前というから前代未聞の出来事。これでは「無責任」と批判されても仕方がない。就任直後(2006年9月)の安倍内閣支持率は60%を超えていた。しかし二ヶ月後、国民に十分な説明が無いまま郵政造反組の復党を容認したことで、支持率に陰りが見え始めた。その後の税制調査会長や行革担当相の立て続けの辞任劇で、指導力不足が浮き彫りとなり、支持率急落に拍車が掛かった。さらに年金問題、相次ぐ閣僚不祥事問題が追い討ちをかけたのは周知の通り。
 
 突然の退陣劇を遡ることおよそ1ヶ月半、7月末に行われた参議院選挙では自民党は惨敗、民主党が第一党に躍り出た。自民党惨敗の敗因は、前述した安倍政権に対する批判、すなわち政治とカネ、年金問題、閣僚不祥事、格差是正、社会保障の改悪、政治・行政不信など様々なことが融合した結果だと考えられる。とりわけ地方での民主党の躍進ぶりが際立った。改選1人区で23勝6敗と圧勝。「この結果が意味するものは何か?」と問いたずねれば、「地方の景気・雇用対策をどうにかしてくれ!」といった切実な叫びが聞こえてこないか?大企業・大資産家寄りの財界主導政治を執り続けている自民党では、もはや地方の窮状を汲み上げてくれそうもない。そこで民主党にいちるの望みを託した、と分析出来よう。長引く不況により地方経済はどんどん冷え込み、三位一体の改革≠ノよる公共事業や地方交付税の削減により地方公共団体、取り分け徳島県や高知県の財政は危機的状況にある。
 
 この無視出来ない民意を意識したのか、それともやっと気付いたのか、先の自民党総裁選では大都市圏と地方の地域間格差問題が、政策課題のひとつとして取り上げられた。それにしてもあまりにも遅きに失したと言えよう。小泉前首相の行った市場重視の経済構造改革路線によって、大都市・大企業は大いに繁栄した。一方「影の部分」となった地方経済・中小零細企業はすっかり落ち込み疲弊してしまった。しかもこの問題については、何ら有効な手だてを打ち出していない。はっきり言えば、ほったらかし。今後どのような方法で地方を活性化するのか、具体的な政策を一刻も早く国民に示し、実行に移す必要がある。その場しのぎのパフォーマンスだけはやめてもらいたい。これは新政権に課せられた最優先の緊急課題である。地方対策の配慮が欠ければ、次期衆議院選挙でも同じ轍を踏むことになるのは必至。
 
 ところで福田氏と麻生氏の一騎打ちのとなった総裁選は、最初から勝負が見えていた。党内九派閥のうち、麻生派以外の八派閥が仲良く足並みを揃え、福田氏支持を表明。立候補する前、また政策論争をする前から早々と態度を決めている。シナリオは既に出来上がっていたと言えよう。総裁選挙とはそんなものなのか?これでは「派閥の全面復活」「昔の自民に逆戻り」「密室政治」と揶揄されても仕方がない。小泉、安倍政権のような国民の人気に頼る政治ではなく、長老議員が牛耳る従来路線に戻っただけかも知れない。
 
 秋の臨時国会で最大の焦点となる政策課題として、通称テロ対策特別措置法=i※1)さらに略してテロ特措法≠ェ挙げられる。この法律の期間延長が可決されるかどうか、連日ニュースで大きく取り沙汰されている。テロ特措法は2001年11月、2年間のみの時限立法(※2)として制定された。その後、延長に継ぐ延長で現在に至るが、2007年11月1日にまた期限が切れる。政府は何が何でも延長を可決しようと目論んでいる。参議院で反対されることを想定して、テロ特措法に代わる新法案を提出する動きもあるようだ。新法案なら参議院で否決されても、衆議院で3分の2以上の多数決があれば再可決・成立出来るからだ。
【※1.現行法では最も長い法律名(計122文字、2007年現在)なので通称で呼ばれる。】
【※2.このような当分の間℃b定的な措置に超便利な法律は他にもある。大抵延長を繰り返し、そのままになっている制度がほとんど。租税特別措置法のガソリン税2倍がそのいい例】
 
 そして10月17日、大方の予想通り政府は新法案「新テロ対策特別措置法案」を国会に提出した。現行法にある自衛隊の活動に対する国会承認事項は削除されている。自衛隊を派兵させる法律には、文民統制を確保する観点から「(活動を)開始した日から20日以内に国会に付議し、承認を求めなければならない」と規定されている。もし与野党逆転の参議院で否決されれば、海上自衛隊は即座に活動を停止しなければならない。この事態を回避するため、政府は国会の事後承認を省略したと思われる。これは2院制を根本から覆す、暴挙とも受け取れる。今後の行方に注目したい。
 
 そもそもテロ特措法の目的は、アフガニスタン対テロ戦争の後方支援援助として定められた。主な任務はインド洋に於いてアメリカやパキスタンの艦船に給油を行うというものだ。ところが2007年9月に、給油のほとんどがアフガニスタン対テロではなく、イラク戦争に使われている疑惑が浮上した。事実ならば間接的にしろ「非核・平和国家日本」が、米軍主導の一方的な戦争に荷担していたことになる。いずれにせよ防衛省と米軍はきっちり情報公開を行い、国民の前に全てを明らかにすべきだ。
 
 何で日本の海自が、はるばる彼方のインド洋まで出掛け、アメリカの艦船に給油しなければならないのか?本当にテロの抑止力となるのか?給油活動がどれ程国益となり国際貢献につながるのか?それはさておきテロ特措法遂行のため、この6年間の支出は一説によると約600億円に上るという。勿論、この費用は日本国の全額負担である。こんなことに大切な国家財政を注ぎ込むぐらいなら、地方の活性化対策に有用に使ってくれ!と声高に訴えたい。それほど地方の経済力はひっ迫している。何はさておき、外交面より内政面にもっと力を注ぐべき。そして前述したように地方の景気・雇用対策に論議を尽くし、然るべき対策を早急に立てることが何より重要なことである。野党側の厳しい追及の矛先は、政府のあらを探してつつくことに終始している。国会論戦のニュースを見ていると、そのように思えてしょうがない。
 
 それにしても軍事活動には途方もない大金がかかるものだ。以前(2006年4月)、日米防衛首脳会談で沖縄からグアムへの米軍移転経費問題が持ち上がった。この時、アメリカ側は海兵隊員とその家族の移転経費のうち、日本に61億ドル(約7,100億円)の負担を求めた。時の防衛庁長官は、いともあっさり負担を了承したというから、聞き捨てならないけしからん話だ。これだけでもとんでもない出費なのに、さらに別のおぶける(※3)ような話が潜んでいた。
【※3.おぶける → 阿波弁(又は徳島弁)で「驚く」という意味】
 
 在日米軍の再編にかかわる予算経費は総額300億ドル。しかもこれは大まかで控え目な試算≠ニしている。このうちアメリカ側の負担は約40億ドル。残りの260億ドル全額を日本側が負担せよ!と仰せられる。これに先の61億ドルを加える(※4)とすれば、321億ドルとなる。日本円に換算するとざっと約3兆6,700億円となる。もう、何をか言わんやである。この中には移転先であるグアム島に建設する海兵隊司令部、宿舎、学校、住宅、電力・下水道関連施設まで含まれている。何故、日本側がそこまで負担しなければならないのか?しかも負担額についての根拠たるものは、一切無いのだから呆れてものが言えない。
【※4.61億ドルはひょっとして総額300億ドルの経費に含まれているかも知れない。どちらであろうが法外な大金に変わりはない。】
 
 日米安保条約に基づく日米地位協定には、日本国内の再編・移転費は日本側が負担することとある。これはまあ理解出来ないでもない。それとは別に思いやり予算≠ニして訓練移転費用や光熱水費の名目で、毎年2,000億円以上を支出している。他の駐留国(韓国、ドイツ)と比較しても突出した高額予算だ。日本は土地を提供しているだけで、在日米軍の経費は全てアメリカ側が負担しているものと思っていた。大切な国民の税金がそんなところに使われているとは、何とも空しく憤りを覚える。なお我が国には現在、陸・海・空軍及び海兵隊が駐留している。
 
 思いやり予算≠ニ聞けば、何か社会福祉関係で国民のためにある予算に違いない!?と思われがちだ。ところがどっこい。防衛施設庁(現在は防衛省本省に統合)の予算枠内に計上されている在日米軍駐留経費負担の通称である。1978年当初は基地内で働く日本人従業員の福利厚生費(62億円)として充てられた。その後、給与の一部、手当、基本給、施設整備費、施設光熱費、訓練移転費用とどんどん範囲を拡大。95年の2,714億円をピークに、以降毎年2,500億円前後を支出しているから、アメリカ政府にとってはうれしい限り。どうしてそこまでしてアメリカのご機嫌を窺う必要があるのだろうか?これではアメリカの属国(あるいはぽち∞51番目の州=jと陰口をたたかれても仕方あるまい。有事の際は、本気で日本を守ってくれる保障があるのだろうか?なお10月(2007年)には米側から、光熱水量他の大幅増額要求を突き付けられている。若干、言葉が過ぎるかもしれないが、こうなると一種のたかり≠フようなものだ。
 
 いずれにせよ在日米軍を移転させるには、日本側も莫大な税金を投入しなければならないということだ。本当に300億ドル以上も支出するとなれば、国民の暮らしをさらに圧迫する事になるのは推して知るべし。現在(2007年10月)のところ、再編計画に反対する自治体とか米軍との調整が終わっていないので大きな動きは見られないが、いつ再燃するとも限らない。注意深く関心を持って見守らなければならない。
 
 「格差是正」「景気・雇用」「年金問題」「社会保障」「安全保障」「税制」「政治とカネ」「教育」「拉致問題」「憲法改正」「高齢化社会」「少子化問題」など、新政権に課せられた難題は山積している。一部前述と重複するが、小泉・安倍政権が遺した「負の遺産」も加え、係る難局にどのように対応し乗り越え、改善を図っていくのか。そして今度は庶民の側に立った目線、すなわち地方や弱者を重視する政策を積極的に行うかどうか。この実現こそが長期安定政権のカギであり、命運を握っている。
 
 もっとも、しょせん密室から産まれた典型的な派閥政権。取り巻き連中は皆、虎視眈々と次期首相の座を狙っている。そんな状況下では、やっぱり期待する方が無理か・・・となかばあきらめの心境にならざるを得ない。70〜80年代の頃「政治は二流、経済は一流」という言葉がはやった。で、現在はどうか?
「政治は依然二流、経済も二流」


(2007年 10月記す)


Sub-Menu





#11.〜大変申し訳ありませんでした〜 へジャンプ