徒然つれづれひとりごと



《#11.〜大変申し訳ありませんでした〜 》
(総文字数 約4,000文字)
 「大変申し訳ありませんでした」(※)
全員黒っぽいスーツに身を固め,神妙な面持ちで記者会見場の正面テーブルに座っている.そして,こう言いながら揃って深々と頭を下げる.会社の倒産や不正あるいは部下の不祥事などで謝っている,会社の重役や官公庁の幹部たちの姿だ.最近,このような光景を頻繁にTVニュースで見掛けるようになった.
(※または「まことに申し訳ございませんでした」)
 
 謝罪会見と言えばズバリこれ!1997年11月,山一證券が破綻(自主廃業)した時の会見を真っ先に思い起こす.倒産の原因はバブル崩壊による営業不振とされているが,会社の経営体質も大きな要因を占めていた.膨大な不良債権(簿外損失)に加え,粉飾決算や違法取引などの法令違反を繰り返していた.
「みんな私たちが悪いんです.社員は悪くありませんから!」
と涙を流し泣きながら謝っていた社長の姿が,取りわけ印象に残っている.ある種の同情の念さえ抱いたものだ.
 
 今年(2007年)はことの外,食品関連業界の謝罪会見が目立った.主だった食品不正を月別(新聞発表順,一部順不同)に整理してみると次のようになる.
【1月】
●不二家:消費期限(※1)切れの材料を洋菓子などに使用していたことが発覚.
【6月】
●ミートホープ:牛肉ミンチ品質表示偽装事件その他.
【8月】
●石屋製菓:チョコレート菓子「白い恋人」の賞味期限(※2)先延ばし問題.
【9月】
●船場吉兆:商品ラベルを張り替えて,賞味期限切れの菓子販売.
【10月】
●大阪市の食品販売業者:中国産そうめんを奈良名産の「三輪そうめん」と偽り販売.
●創業300年の老舗赤福:「赤福餅」の消費期限,製造日,原材料表示偽装.
●御福餅本家:御福餅の不正表示(同上).
●比内鶏社:「比内地鶏」と偽り,廃鶏や別の鶏肉を加工して販売.
●アサヒ物産:比内鶏を使用していないにも拘わらず,表示のシールを貼って「たまごクッキー」を販売.
●ミスタードーナツ:乳飲料「フルーティミルク」に賞味期限切れの原料使用.
【11月】
●三宝製菓:「比内地鶏卵使用」「超特選大吟醸」と偽装表示.
●船場吉兆:九州産の牛肉を「但馬牛」「三田牛」と偽装.そして「奥美濃そば」の原材料表示違反.惣(総)菜でも期限偽装が発覚.
●カワウ:中国産タケノコ水煮にJASマークを不正表示.
●沖縄都ホテル:桜島産鶏を「やんばる地鶏」と産地偽装.
(※1:消費期限は生鮮品,弁当,惣菜,生菓子類など製造日当日から約5日以内に劣化する痛みやすい商品の目安.安全に食べることのできる期限であり,期日を過ぎると食べられない)
(※2:賞味期限は乳製品,スナック菓子,缶詰など劣化しにくい加工商品の目安.おいしく食べることのできる期限であり,期日を過ぎても食べられる場合がある)
 
 これだけ不正が洪水の如く溢れ出ると,摘発された業者は単なる"氷山の一角"ではなかろうかと疑わざるを得ない.日本の食の安全はどうなっているのか?国内だけでなく中国産食品も気に掛かるところ.『残留農薬や有害物質は"基準値以下"だから,食べても何ら健康に影響はない』そのように"安全宣言"されても,にわかに信用出来ないし逆に不安は募るばかり.「ああ,そうですか」と頷いて素直に買う気になれない.こうなると"疑心暗鬼"状態.消費者自身が適切な判断を下さなければならない,いやなご時世となった.
 
 さて,過去に雪印乳業の乳製品によって引き起こされた集団食中毒事件(2000年),それに続き雪印食品による牛肉偽装事件(2002年)があった.これら一連の不祥事により雪印乳業は再編され,雪印食品は廃業・解散に追い込まれた.一度信用を失墜すれば,信頼は容易に回復出来ないという証だ.それでもなお不正が無くならないばかりか,こうも次々と続いているのは何を意味しているのか?『外部に漏れることなど,ウチに限ってまずもって無い!』と安易に高をくくっていた節がある.すなわち関わったどの会社も,数年〜数十年(またはそれ以上)にも渡って連綿と悪事を働いていたようだ.消費者を騙して不正に稼いだ利益も,相当な金額に上ることだろう.不正を一度でもやれば,予想外の莫大な儲けに目が眩み,もうどうにも止められない.『乞食も三日すればやめられぬ』の如し.後先を考えず利益至上主義に走った結果であろうが,払うべき代償は余りにも大きい.
 
 不正発覚は(元または現)従業員や幹部からの内部告発に依るものが,ほとんどを占めている.ミートホープ社の場合,発覚の1年余り前,元社員(役員)が農水省北海道農政事務所に内部告発をしていたと云う.その時,偽装牛ミンチのサンプルを持参したが,事務所側は受けとらなかったばかりか,その告発を無視し放置していたというから言語道断のけしからん話だ.こうなると官もグルなのか?といらぬ勘繰りもしたくなる.その他にも昨年(06年)8月から12月にかけ,市や保健所に情報提供や内部告発が9件寄せられていた.立入調査もしたらしいが,不正をあばくことは出来なかった.今年(07年)4〜5月に朝日新聞社が,北海道加ト吉の牛肉コロッケを購入してDNA鑑定をした結果,豚肉だけか,または豚肉が大半を占めていたことが判明した.そもそもこれが発覚の糸口となった.
 
 また三重県赤福の偽装事件も同様で,本社に過去4回の立入調査を実施しながら,全く偽装を見抜けなかった.事前に何度か"まき直し(※3)"や"先付け(※4)"に関する詳細な情報を得て得ていたにも拘わらず,この大失態.グルでないにしても対応が余りにもおざなりで甘すぎた,と責められても仕方ない.なお偽装発覚となった発端は,東海農政局「食品表示110番(※5)」に入った一本の電話だった.局から連絡を受けた農水省は赤福餅を購入,科学的分析を行った上で調査に入り,遂に偽装を見抜いた.この時,三重県はまだ赤福擁護の態度を示していたと言うから,呆れるというか,なれ合いもいいとこだ.
(※3:まき直しは,製造日と消費期限を先延ばしした包装紙に替えること)
(※4:先付けは,あらかじめ消費期限を1日先送りすること)
(※5:雪印事件などをきっかけに農林水産省が2002年2月,各農政局・農政事務所に設置したホットライン)
 
 それにしても不正発覚後,本社で行われたミートホープの記者会見は,間の抜けたお粗末極わりない会見だった.マスコミの質問にのらりくらり,責任を工場長に押しつけたり,あやふやで言い訳・言い逃れ的な返答ばかり繰り返していた.その社長に対し,見るに見かねたのか,それともいら立ったのか,横に同席していた取締役である長男がいきなり沈黙を破った.
「社長,本当のことを言って下さい!やったのなら認めて下さい,お願いします!」
この懇願するような言葉にたしなめられたのか,社長は自らが指示していたことをやっと認め始めた.
 
 そこで思い出すのが建築基準法や条例に違反し,摘発された東横イン社長の当初の記者会見.この社長も同様に反省の念がこれっぽっちもないばかりか,人をバカにしたような傲慢な笑みを浮かべ,会見に臨んでいた.第三者には変わった面白い個性の社長だと映ったが・・・さらに次のような内容のコメントを調子よく吹いていた.
「条例違反をやっちゃいました.スピード違反したようなもの.これからは60qの道は60qできっちり走ります.どうもすいません.」
この軽はずみな発言をマスコミが大きく取り上げるやいなや,世論の猛反発を引き起こし,こっぴどく糾弾された.その後の記者会見ではあの勢いは何処へやら.ひたすら低姿勢で見る影もなく,涙を浮かべ平謝りしていた.そう言えば,耐震偽装分譲マンションの販売会社ヒューザー社長も,同じような末路を辿っていた.
 
 これら一連の出来事は,不祥事に対する会社(又は官公庁)の初期対応が如何に重要かということを,如実に物語っている.シラを切らずに潔く謙虚に罪を認め,誠実に然るべき対応を速やかに取っていれば,世間の見方は随分違っていただろうに.うそは遅かれ早かれ必ず白日の下にさらされる.そしてますます傷口を大きく広げるばかり.それにしてもトップの連中には,常識とかモラルのかけらは無いのだろうか?大臣にしたって,非常識きわまる突拍子もないことをベラベラ喋って,国民の怒りを買っている.おっと,もとい!今"非常識"と言ってしまったが,元々常識を持ち合わせていないのだから"無常識"と表現した方が,はるかに合っているかも・・・
 
 前出の各社長に共通する点は,典型的な"ワンマン社長".会社を一代(老舗の赤福等は除く)で国内有数の企業にまで成長・発展させた業績は,偉大と評価出来きよう.しかし反面,独裁的に経営を統括し,自分をあたかも天皇のように思い込んでいる.取り巻きの重役達は,全く意見の言えない"イエスマン"ばかり."意見しようものなら即,首が吹っ飛ぶ"状況なので,チェック機能は全く無し.NOVA(ノヴァ)もその代表的な例.その他に創業者一族による"同族経営"の弊害も挙げられている.こんな状態では,経営がいつまでもうまく続く訳がなく,いずれその内破綻する運命にある.
 
 不正・不祥事というもの,政界は言うに及ばず,社会保険庁・防衛省を始めとする官公庁,最近では耐火性能偽装のニチアスとか東洋ゴム工業などの有名企業,教職員の資質を問われる教育界,相撲などのスポーツ界,果てはTV局のねつ造番組とか大学・高校等の運動部に至るまで,あらゆる業種・分野に及ぶ.まさに不正のデパート「日本」,一体何処へ行く?今日もどこからか聞こえて来そうだ.今や決まり文句となったあの"口上"が・・・
 
「お客様やご関係者の皆様には多大なご心配とご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます」
(ここで当事者全員が立ち上がり,一同揃って頭を下げる)
 
「〜大変申し訳ありませんでした〜」
 

(2007年 11月記す)


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