徒然つれづれひとりごと



《#12.悪才は 今も昔も 変わりなし 》
(総文字数 約4,100文字)
【 悪才(あくさい):悪事を働く才能・能力 】
 
 古今,芝居はもとより映画・テレビでも,悪を懲らしめ弱きを助ける時代劇に根強い人気がある.例として"遠山の金さん""水戸黄門""大岡越前""桃太郎侍""暴れん坊将軍"などの人気番組が挙げられよう.そして必ずと言っていい程,題材として悪代官と廻船問屋との癒着ぶりを取り上げた筋書きが登場する.
 
 料亭のお座敷での場面.キンキラの派手な羽織袴を着たお代官様と,あくの強そうな小太り気味の廻船問屋との密談模様.たいてい廻船問屋が豪華な木箱に入った饅頭("かすてぇ〜ら"とか"もなか"の場合もある)を,お代官様に差し出すカットから始まる.菓子箱は二重底になっていて,ガバッと饅頭を持ち上げると,下段には賄賂(袖の下)の小判がぎっしり敷き詰められているという寸法.このワンシーンを再現すると次のようになる.
 
お代官:(嬉しそうに菓子箱を手にとり眺めながら)
「越後屋(※注),そち(またはお主)の饅頭はいつも重いのう.お〜,これはこれは!うっ,ふっふっふ,山吹色の饅頭もあるでないか!そちもなかなかの悪よのぉ〜」
廻船問屋:(謙遜しながら)
「なぁ〜にをおっしゃいます,お代官様だって・・・」あるいは
「いえいえ,お代官様ほどでは・・・」
お代官:(扇子で相手を指しながら)
「なにを言う!そもそも抜荷を持ちかけたのはそちの方ではないか!」
お代官&廻船問屋:(両者顔を見合わせ揃って笑う)
「ワァ,ハッハッハッハッハッ・・・」
(※注:悪徳商人の屋号はたいてい"越後屋"であるが,その他"大黒屋""相模屋""近江屋""備前屋"などもよく使われる)
 
 しかしながら,悪事もいつかはばれて御用と相成る.そこでお奉行様直々による,お取り調べの場面へと移っていく.数々の悪行三昧をあばくシーンは毎度お馴染み.この時,名うての悪党共は必ずシラを切って抵抗するのが定番となっている.そこで“遠山の金さん"お馴染みの次の名場面.いよっ!待ってました!
 
お奉行:(罪状を読み上げて)
「その方たち,これにしかと相違ないか?!」
お代官&廻船問屋:(しらばくれる)
「なぁ〜んの証拠もないのに代官である私めをこともあろうに罪人扱いとは・・・」
「めっ,めっそうもございません!お奉行様.手前共は真面目な商人(あきんど)でございます.そのような大それた事を・・・」
(悪党はとことんとぼける)
お奉行:(しばらく黙って聞いているが,頃合いを見計らって)
「ええ〜い!だまれだまれ!悪党ども!おうおうおう!黙って聞いてりゃ寝ぼけたことばっかり抜かしやがって!」
(突然,遊び人風の口調に変わって,やおら片肌を脱ぐ)
「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえぜ!この遠山桜,散らせるもんなら散らせてみろ〜い!」
廻船問屋:(観念してひれ伏す)
「はっはぁ〜,恐れ入りやした!」
お代官:(お代官は往生際が悪い)
「おのれ〜!遠山め!」
(刀に手を掛けお奉行に斬りかかろうとするが,あっさりお奉行に蹴っ飛ばされる.お役人に取り押さえられ,お縄を頂戴する)
この後即座に「市中引き回しの上,はりつけ獄門」などの極刑を申し渡す.身分の高い罪人は「ご公儀より追って沙汰する」場合もあるが,ともかくこれで目出度く"一件落着"となる.
 
 以上がよく見られる時代劇おきまりのパターンである.遠山の金さんらヒーローの登場を除けば,現在の官民癒着とその内容にほとんど変わりがないことに気付かないだろうか?それどころか、その後の取り調べに至る悪党どもの、往生際の悪い態度までそっくりそのままじゃありませんか!今も昔も変わることなく,悪才は脈々と生き続けているという証拠.
 
 官民癒着の汚職事件と言えば,1976年に起こった「ロッキード事件」を思い出す.日本中を震撼させた戦後最大級の汚職事件でもある.ロッキード事件とは民間航空会社(全日空)の旅客機選定に絡み,政界の大物がロッキード社に有利になるよう働き掛けをした.ロッキード社からの工作資金30数億円が,首相を始め多数の政府高官に流れたとされる.当初,全日空はマクドネル・ダグラス社(現在はボーイング社に吸収合併)のDC10を内定していた.ところが急転直下,ロッキード社のトライスターに変更された.
 
 この時,同じロッキード社のP3Cオライオン対潜哨戒機導入についても,大物議員との疑惑関連が取り沙汰された.ここで購入金額を比較してみよう.全日空トライスターは総額約1,050億円(21機×50億円).対する防衛庁海上自衛隊P3Cオライオンは総額約3,500億円(45機×80億円弱)にのぼる.ただし,P3Cは電子機器を装備すれば,1機130億円になるという.民間航空機導入については徹底的に真相解明(※1)されたが,肝心の自衛隊機導入については何故かうやむやにされ,闇に葬られた経緯(※2)がある.なお現在,自衛隊はP3Cを98機(※3)保有している.これは軍事大国アメリカに次ぐ保有数だ.
(※1:限りなく黒に近い灰色議員もいたようだが,田中元首相逮捕で全ての幕を降ろした)
(※2:アメリカCIAの陰謀とする説もある)
(※3:全納入機数は102機)
 
 あれから30年余りが経過した.これまで防衛利権を巡る贈収賄は,消滅したかと思われた.どっこい,実は水面下で密かに進行していた.防衛専門商社「山田洋行」と前防衛事務次官との癒着接待がそれである.ゴルフ接待だけで300回を超えるという.これだけ派手に接待を受けていたのなら,何故現役の時,問題とならなかったのか?まことに不思議なことである.事務次官としては異例の4年以上の長きに渡り防衛庁(省)を取り仕切り,庁内で絶大な権力を振りかざし「歩く防衛権力」「独裁者」「天皇」とさえ呼ばれていた.それだけに誰も一切口出し・手出し出来なかったのかも知れない.
 
 前防衛事務次官に対する国会証人喚問がつい先日,衆院(10/29)と参院(11/15)で行われた.数々の接待を受けたことについては認めながらも,便宜供与については否定したが,かえって疑惑は深まるばかり.見返り無くして会社や業者が,接待するだろうか?ヒルマン監督ではないが,そんなことは「シンジラレナ〜イ!」そして肝心な質問に対しては,果たして予想通り「記憶にございません」「覚えておりません」「承知しておりません」の"証人喚問三大慣用句"を惜しげもなく連発していた.このうち「記憶にございません」は,1976年2月に行われたロッキード事件国会証人喚問において,一躍流行語となった.いわば証人喚問御用達の"常套句"でもある.それ以降,要人が都合の悪い質問を受けた際,必ずと言っていい程,この便利な言葉を使い回すようになった.
 
 参院での前防衛事務次官証人喚問に於いて,野党が執拗な質問攻勢を掛けた.この時,飲食接待を受けたとされる二人の議員(共に元防衛庁長官)の名が浮上した.やはり裏で暗躍している政治家はいたようだ.早速,マスコミがこの二人を取材したが,そのコメントは揃って「(まったく)記憶にない」だった.この発言の裏には,嘘をついていることがちらほら見え隠れする.本当にそんな事実がないのなら,国民の前でばっさりと完全否定すべきだ.100歩譲って「記憶にない」というのが本意だったとしよう.ならば何とまぁ,呆れるくらいおつむの弱い政治家なのか!とてもそのような連中に,国政を任せる訳にはいかん!即刻,やめてもらいたい.
 
 と思っていたら案の定,片一方の元初代防衛相が軍事情報会社を経営していることが分かった.しかも防衛庁長官在任時(1997年)に設立したというからもっての外!国家最高機密であろう軍事情報を扱う長官が,軍事情報提供を目的とした会社の取締役とは!アァ〜,世も末.一方,もうひとりの現財務相は政治資金パーティ券220万円分を,山田洋行に購入してもらっていた.全額返還したと言うが,こんな問題が持ち上がらなければ返還していないはず.いずれにせよ山田洋行と緊密な関係にあったことは確か.その数日後には,発注工事をめぐる口利き疑惑も発覚.ぽつぽつと疑惑の糸がほころびかけたようだ.防衛関係の政治家を巻き込み,いよいよ政界へと飛び火してきた感がする.今後どのように展開して行くのか,いっときも予断を許さない.
 
 国会証人喚問では,証人は喚問の前に「良心に従って真実を述べ何事も隠さず何事も付け加えない」と宣誓する.虚偽の証言を行えば,偽証罪で訴追される.その点「記憶にない」という発言は,まことに便利この上ない.後日,動かぬ証拠を突き付けられて嘘がばれても,「あぁそうそう,そうだった,言われるとそんなこともあったような気がしないでもない・・・」「そういうこともあったかも知れないが,よく覚えていない・・・」などと,すっとぼけて居ればいい.これなら偽証罪に当たらない.悪党たるもの,顔色を変えず平然と嘘の付ける,肝っ玉のどっしり据わったふてぶてしさが必須条件.
 
 兵器は言うに及ばず軍需機器・装備類の価格は,どれをとっても腰を抜かすほどべらぼうに高い.加えて在日米軍グアム移転や普天間飛行場移設など,巨大軍事プロジェクトが控えている.それだけに飛び交う利権は半端でない.そこで事を有利に運ぶ為,政治家や高級官僚を抱き込み結託を計ろうとする.そんな買収工作に東西奔走する悪徳商人が,そこかしこにはびこり蠢(うごめ)く.現代の悪代官と廻船問屋そのもの.まさに「悪縁契り深し」
 
 悪才というもの,時代は移り変わっても根本的に不朽不変.稀代の盗賊石川五右衛門が詠んだ辞世の句がそれを物語る.
 
石川や浜の真砂は尽きるとも世に"悪才"(※)の種は尽きまじ
(※原文は"盗人")
 
 
 なお付け加えると,1978年にも政界を巻き込んだ同様の汚職事件「ダグラス・グラマン事件」が発覚している.この時も名前の挙がった大物政治家たちは刑事責任追及を逃れ,まんまと逃げおおせている.今回も前防衛事務次官夫妻及び防衛商社幹部の逮捕(11/28)のみで捜査を打ち切ることが大いに懸念される.国会議員の職務権限とか政府与党あるいは“影”?の圧力,それに時効(5年)のカベが予測される.東京地検特捜部には,今度こそ"政界ルート → 闇の真相"を徹底究明してもらいたい.「仏の顔も三度まで」みたび同じ轍を踏むようでは,もはや国民の信頼は得られまい.それにしても収賄容疑で夫婦揃っての逮捕とは異例中の異例.この妻は元防衛庁職員で,夫の権力を笠に省(庁)内では“女次官”“女帝”として相当の存在感があったと聞けば,「なるほど!」と納得がいく.
 

(2007年 12月記す)


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