新・徳島の山
VOL.4

【 サガリハゲ山 標高 1,740.0m 】
2008年10月16日(木曜日) 天候:晴
所在地:徳島県三好市(東祖谷)
走行距離(自宅→登山口):101km
(総文字数 約3,000文字)
 
 登山口である落合峠(標高1,520m)に早朝6:20に到着.この時季,日の出が6時過ぎだから日が昇って間もない時である.太陽光は,これから登ろうとするサガリハゲ山の峰々に遮られ,辺りはほんのり明るい程度.南の落合集落方面を見下ろせば,漆黒の闇のようだ.それにしても寒い!思わず身震いする.気温は10℃以下と思われる.早々に身支度を整え 6:30 登山開始.

 <落合峠の夜明け>


 <早朝の落合峠>

 
 峠を覆いつくす笹の葉っぱには,朝露がべっとり付着している.たちまちズボンが濡れ,冷気が足に染み渡る.尾根に登り切ると,辺り一面白銀のようにきらきら輝いている.朝日が葉っぱに反射しているからだが,よく見ると水滴は凍って霜が降りたようだ.その合間にススキが群がって生えている.晩秋ならではの風景が広がり,いい気分で歩を進める.

 <尾根道より日ノ丸山(中央左),城ノ丸山(中央右)を遠望>

 


 ところでここで話は逸れてしまうが,まぁ,聞いて欲しい.笹の葉に付着した水滴で思い起こすことがある.それは1993年(平成5年)8月25日の“事件”だった.知人のSさんが仲間二人と石堂神社を経由して白滝山→石堂山→矢筈山→黒笠山を巡る大縦走を試みた.一日で巡るコースとしては長く,歩行距離は20km近くなるのではないか?標高差もあり言わば健脚者向けの大ベテランコースだ.出発地点は徳島県つるぎ町一宇村石ノ小屋.
 
 午前3時に登山を開始.グルッと周遊し矢筈山を過ぎて最終目的地の黒笠山に無事到達.引き返し,矢筈山へ続く尾根筋から出発地点である石ノ小屋へ下ろうとするが,下山路がどうにも見付からない.そこで兎に角、下へ下れば石ノ小屋へ至る林道へ突き当たるから,谷筋に沿って闇雲に下山を始めた.ところが進路には滝がいくつも出現.荷物をリレーし,飛び降りたりしながら難所を何とかクリアしたが,遂にとんでもない大きな滝に遭遇.諦めて稜線まで引き返すことにした.
 
 しかし,辿り着いた時は疲労困憊でヘトヘト.もはや誰も一歩たりとも歩く体力は残っていない.幸い仲間の一人がアマチュア無線機を持参していたので救助を要請.受信したアマチュア無線家が警察へ通報.導入間もない徳島県警ヘリコプター「しらさぎ」が出動し,現場に急行.そして二人までを救助したが,霧の発生と夕闇がせまってきた.そのためSさんだけが取り残され,眠れぬ長い一夜を過ごすはめに陥った.翌早朝,喉の渇きを癒すため,笹の葉に付着した夜露を舐めるように飲み干した.
 
 午前8時頃ヘリが到着し,無事救出された.ホバリング(空中停止)状態での吊上げ救出だったため,バックパックなどの所持品は全部現地に残してきた.現在でもそのまま残っているらしい.それから何日かの後,さる病院で健康診断を受けたがこの時,寄生虫らしきものが検査で発見されたと云う.恐らく笹の葉の滴を飲んだせいであろう,ということだ.なお県警ヘリ「しらさぎ」は,この救出作業が最初の任務となった.
 


 そんな出来事を思い出しながら歩いていると,いつしか樹林帯に入っていた.さらに30分程水平道を歩くと,いきなり急坂の登山道に出くわす.ロープも張られている.約15分掛けて登り切れば,環境庁の道標が立てられている.そこがサガリハゲ山への分岐点だ.小さな標識が枝にぶら下げてある.本道を進めば矢筈山へと至る.【登山口より1時間10分】

 <分岐点に立つ矢筈山への道標>


 <サガリハゲ山への標識>

 
 ここから先は明確な登山道はなく,ヤブこぎを強いられる.数分の後,矢筈山方面が見渡せる大岩に到着.3つ目の大岩を過ぎれば,間もなく見晴らしのよいピークへ.「矢筈山3峰」と呼ばれ三角点のような標石がある.手元の高度計は1,800mを示している.目的のサガリハゲ山が前方に聳えているが,このピークより標高は明らかに低い.それにしても目的の山へ続く尾根は一気に切れ込み落ち込んでいる.一旦1,670mの鞍部まで下って,また登り返さなければならない.ここから先はしんどい登山になりそうだ.【分岐点より35分】

 <大岩より望む矢筈山(1,848.5m)方面>


 <ピークにある標石>


 <ピークより望むサガリハゲ山>

 
 ピークからの下降口が,少々分かりづらい.いきなり断崖絶壁の下りとなりヒヤヒヤしながら降りる.以降,樹林帯を最低鞍部まで下ってゆく.だんだんと足元の笹が増え始め,鞍部に近づく頃には腰の辺りまでに達する.以降,尾根は広くなり一面びっしりの笹原となる.そして笹はさらに深く,背丈ほどの高さとなる.ただひたすら笹を押し倒し,尾根に沿って泳ぐように登るのみ.苦しい!当初,サガリハゲ山登山は9月中旬頃を予定していた.仕事の都合で一ヶ月遅れてしまったが,これでよかった.暑ければ疲労も倍増するし,第一,蛇など何が出てくるか分かったものでない.

 <落合集落方面>


 <尾根一面に広がる笹原>

 
 ところで「サガリハゲ山」という一風変わった名の由来は判っていない.ひょっとするとその昔,この斜面一面の笹原は無かったのかも知れない.それで山頂より“下がった”所が“ハゲ”ていたのでこのような名が付いた・・・さて,ヤブこぎすること40分余り.笹が薄くなと頂上直下の崖下に着く.この崖を登れば待望の1,740mのサガリハゲ山頂上だ.まばらに生えている木の枝や根に掴まりながら一気に登り切る.数分の歩行で山頂(標高1,740m)到着.ザックを背負ったまま,しばらく座り込んで息を整える.苦労して登った山ほど,その達成感もひとしお.しばし感慨の余韻に浸る.【ピークより1時間15分,登山口より3時間】

 <サガリハゲ山頂上>

 
 山頂は狭く雑木が生えているので視界は無いが,すぐその先の斜面が開けている.ここから落合峠方面を遠望できる.今日は本当に天気がすこぶる良い.しかも暑くも寒くもない.しばしの休息の後,山頂付近の風景をデジカメに収める.30分の後,身支度を整えジャスト 10:00 下山開始.

 <視界の開けた斜面>


 <落合峠を遠望.遠方の山は烏帽子山(1,669.9m)>

 
 登山時と下山時のルートが,かなり外れているようだ.そのため笹原では進路を何度も修正する.そんなことを繰り返しているうちに,足が痛くなってきた.特に膝の辺りが痛くなり,思うように足が動かなくなってきた.歩行速度もだんだんと落ちてきた.標石のあるピーク(矢筈山3峰)に戻る頃には,疲労も重なり既に体力の限界状態.【山頂より1時間15分】
 
 ピークを過ぎると男女十人程の中高年パーティとすれ違う.ベテランらしきリーダーが前後を守っている.これなら安全に登頂可能だ.一行は鳴門から来たと言う.挨拶を交わして別れる.彼らの通った後には,帰りの目印としてメモ用紙大の紙が枝とか笹に架けてある.架けやすいように予め紙には穴が空けられている.多分,この紙は下山時に回収するのだろう.これはなかなかいいアイデアだ.目立つ目印の御陰で,迷うことなく分岐点まで辿り着くことが出来た.【ピークより30分】

 <途中の尾根道より落合峠方面を望む>

 
 ここまで戻ればもう安心,後は明確な登山道を下るだけでよし.ところがどうにも足が動かない.特に下り勾配になると途端に膝が痛み出し,牛歩の如くゆっくりとしか歩けない.そんな訳で駐車地点の落合峠に戻るのに,登りと比較してこの区間だけで20分,トータルでは約15分も余分に時間を要した.落合峠 13:15 着.【分岐点より1時間30分,山頂より3時間15分】

 <落合峠へ至る尾根道>


 <尾根より望むサガリハゲ山(右)>


 <登山道入り口標識.ツキノワグマに注意!!>

 
 今まで徳島の山を60数座登ってきたが,今回のサガリハゲ山は最も険しくきつい山のひとつとなった.未踏峰がまだ20近く残っているので,さらに険しい山に出会うかもしれない.以下に特に印象に残った険しい山を二つ挙げておこう.
・石立山(標高 1,707.7m)
 コース:徳島県日和田→山頂→高知県別府峡
 コメント:登りもきついが,別府峡への下りがもっときついし時間が掛かる.
・寒 峰(標高 1,604.6m)
 コース:落合峠→山頂→落合峠(往復)
 コメント:帰りの前烏帽子山への登り返しが,疲れた体に相当堪える.
 
(1,000m峰 完全登頂まであと 20 座)

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